賑やかな二人がいなくなった部屋は、途端にしんっと静まり返る。
「もう少し飲む?」
オレは立ち上がると、汚れた食器を片付けて水割りの用意をした。
もういい時間だし、つまみは夕飯の残りと作りおきのオレンジピールショコラでいいか、と冷蔵庫を開ける。
大野さんはロック、潤くんはダブルでオレは自分用にごく薄い水割りを作った。
グラスを渡しながら
「潤くん、準備は進んでる?」
このところ会えないせいでずっと気になっていたことを聞いた。
「うん、予定通りに開店出来そう」
グラスを口に運びながらほんの少し笑った。
潤くんはもうすぐ、お母さんの住む実家の近くに自分のラーメン屋をオープンする。
母一人子一人で育った潤くん。
お母さんを一人田舎に置いてこの街に出て来てしまった若い頃。
お母さんには心配もかけたし、寂しい思いもさせてきた。
その事を後悔している潤くんは、いつかお母さんと一緒に暮らすために一生懸命修行をして、お金も貯めていた。
すでに開店資金も貯まって師匠にもお墨付きを貰ったのに、なかなか動き出さなかったのは、大野さんがいるから。大野さんと離れたくなかったから。
本人は言わないけどね。見てればわかる。
ところが元々あまり身体が丈夫じゃなかったお母さんの体調がこのところ思わしくなくて、
潤くんも重い腰を上げることになった。
だけど、店舗を探すところから、店の細々したところまで、全部を一人で決めなきゃならない潤くんはとにかく忙しくてオレはしばらく顔を見れないでいた。
「人手はあるの?」
向かい側のオレからは二人の顔が良く見える。
「最初のうちはそんなに給料出せないだろうしなぁ。
母親が手伝うって言ってるけど、あんまり無理もさせられないし………
まぁ、バイトでも探すよ」
田舎に帰ったら、自動的にここは辞めることになる。
潤くんは寂しそうな顔で時々大野さんを見る……
のに………
大野さんは、グラスに視線を落としたまま、潤くんの視線には気づかない……ふり……………
このままでいいの?
潤くん田舎に帰っちゃうよ
そうしたら今までみたいに会えないんだよ
ここは二人で話した方がいいのかもしれない。
「……じゃあ…オレ、そろそろ……」
「……ニノ」
せっかく気を利かせて帰ろうと思ったのに、引き留めるように大野さんがオレを呼んだ。
つづく