しばらく走ると窓の外にちらちらと海岸線が見え隠れするようになり


その面積が増すごとに周りを走る車の数が減っていく。


やがて人家も疎らになった頃、車は幹線道路を外れて砂利道を走り、どう見ても空き地にしか見えない駐車場で停まった。


上着を着込んで外に出る。


目の前にはにび色の空と、それを映したいかにもな冬の海が広がっている。


おいで、と手を引かれてあなたに着いていく。


岩場に囲まれた小さな砂浜は、それでも立派に砂浜で


沈む砂地に足を取られながら波打ち際へと向かう。


季節的にも天候的にもここをレジャーに選ぶ人は稀なんだろう。
あなたの言った通り、周囲に人影はなかった。


打ち寄せる波のすぐそばに立っても、さすがにこの寒さでは足を浸ける気にはならない。
それでも際まで来たせいで、目の前には視界に入りきれない程の一面の海が広がっていた。


「水のかけっこ、出来ないねぇ」


ちょっと残念そうに、でも楽しそうにあなたが笑っている。


「あたりまえでしょ。風邪ひいちゃうよ」





波打ち際を二人で歩く。
時々貝殻を見つけたり、シーグラスを拾ってみたり。
とくに何をするでもなく、ゆっくりと歩いているだけなのに、何故か満ち足りていた。


あなたが海の上を指差して
その方向を見ると、そこには
立ち込めた雲が割れ、そこから太陽の光が一筋海に差し込んでいた。
照らされた海面だけがキラキラと輝いている。


空と同じようでやっぱり違う海の色
視界のずっと先で弧を描く水平線
寄せる波が作る白い飛沫
途中、島も船もない
遮るものの何もない景色


吹く風が潮の香りを運んでくる。


内陸で育ったオレには嗅ぎ慣れない香り。
だけど、何故か懐かしいような。


何だろう
不思議と解放された気分になる
何から解放されるのかわからないけど


オレは遠い海のその先を見ながら、深く息を吸ってゆっくりと吐いた。


真冬の海辺
体感は激寒なのに
なんだか気持ちいい










「………きれいだ」


不意に斜め上から聞こえた、ため息混じりの声。


「ホントだね」


見上げると、一緒に海を見ているとばかりの思っていたあなたの顔はすっかりこっちを向いていた。
オレを見つめてこれ以上ないほど優しく微笑むあなた。


「……何よ」


その言葉がオレに向かって言っているのに気付いても素直に喜べないオレ。
あなたの顔を見ていられなくて視線を逸らした。


なのに


「すごくいい顔してる。
そんな風に笑えるんだね。
来てよかった」


温かい微笑みに加え優しい声音で語りかける。
オレ、笑ってたの?
全然気付いてなくて、思わず両手で頬を押さえた。


「リュウちゃん、あの部屋でいつも、どこか辛そうだったから……」


あの部屋は、あなたに逢うためにオレが自分で選んだ場所で……


あなたに会う前も、あなたに会ってからも、辛くなかった………とは、言えないけど


そんな事であなたに気を使わせてしまっていたのかと思うと軽く凹む。


うつ向いてしまったオレの頭の上で、くふふという独特な笑い声。
そして、思ってもいない言葉が後頭部に降ってきた。










「……………やっぱり……好きだな」














つづく