最初は、それこそ身体の繋がりだけでいいと思ってた。
なのに、いつの間にか身体よりも心があなたを求めてる。あなたの心を欲してる。
喜びも悲しみも共に味わいたいし、何気ない日常を一緒に過ごしてみたい。
そんな願いを持っちゃいけない立場だって、わかっているのに。
オレたちの関係は、キャストとゲスト。
買うものと買われるもの。
再会したあの日から何にも変わってないんだから。
ほら、そろそろタイムリミットだ。
オレたちの見せかけの関係が終わる時間。
あなたをシャワーに促すと、当然のように手を引かれた。
一緒に浴びるシャワーの下で、終わりを惜しむように重ねる身体。
最近はいつもそうで
時間ギリギリまで
そうしてどれだけ求められても
帰っていくあなたを見送って一人残されるこの部屋は、あなたがいなくなった途端に寒々しい空間に変わって……
毎度のことなのに、胸が潰れるほどの苦しさにただ耐えるしかない。
今日もその虚しさを抱えながら、あなたに背を向け身支度を整えていた。
「ねぇリュウちゃん、海に行かない?」
唐突にかけられた言葉に驚いて振り向くと
ダウンジャケットを手にしたあなたが、真っ直ぐにオレを見ていた。
「…………あの……でも、………アフターは………ワタシは……」
あまりに突然で、どう返していいのか、
思わず『PARADOX』の決まり事を口に出してみるけど、
すでにオレはキャストであって無いようなもんで、…
だけど、あなたの考えていることもわからないし
どう答えていいのか、どうするべきなのか決めかねてただおろおろとするばかり。
「……休みの日は?
外出って出来ないの?」
休み……休みなんて、あなたと逢う日以外はほとんど休みのようなもの。
だけど、休みだろうがなんだろうが『PARADOX』のキャストは指定された部屋以外でゲストに逢うことは禁止されてる。
オレは今は他の客は取ってない、けど……
だけど……
大野さんの顔が頭に浮かんだ。
また、違反をする。
迷惑をかける。
心配するかも……
でも……
それでも……
「行きたい。相葉さんと海」
オレは、心からの望みを口にしていた。
オレの返事に嬉しそうに顔を綻ばせたあなたは
気が変わらないうちにと、
その場で日時と待ち合わせ場所まで決めて、
楽しみだね。
と、オレの頭をクシャリと撫でて帰っていった。
あなたに会える
この部屋じゃない場所で
どうして突然そんなことを言い出したのかわからないけど、嬉しくて
あなたがくれた待ち合わせのメモをそっと両手で包み込んだ。
今日だけは、一人残されたこの部屋がほんのりと暖かいような気がした。
つづく