ソファーから飛び上がったオレは、そのまま立ち尽くしてじっと扉を見つめる。





コンッコンッ


もう一度扉を叩く音。


恐る恐る扉へと近づいて、ドアノブを回した。






細く開いた扉の向こうに、もう一度会いたいと願った顔が微笑んでいた。


あなただ


本当に来たんだ


半信半疑で、それでも願ってやまなかった再会。


テレビで見ている通りの麗しい容姿とテレビでは見れないはにかんだ様な笑み。


本当にやって来た『また』に胸が一杯で、そのまま時を止めてしまいたくなるけど、こんな所ではいつ人目につくかわからない。


オレはそっとあなたの手を取り部屋の中へと引き込んで、後ろ手に扉の鍵を閉めた。


繋いだ手は離さずに部屋の奥へと誘うと、あなたはおとなしくついてきた。


どうやらオレのうるさい鼓動は繋いだ手からはあなたに伝わらなかったらしい。


そんなことにホッとしながら、あなたからカバンと上衣を受け取りクローゼットに片付ける。


その間に戸惑いながらもソファーに腰かけたあなたに声をかけた。


「…何か飲みますか?」


『PARADOX』のキャストがゲストにかける、マニュアルの様な言葉。
オレを見上げたあなたの視線が一度伏せられて、そしてもう一度オレの視線と合った。


「…じゃあ、ビールを」


テーブルの脇に予め用意されたシャンパンやワイン。


このホテルの格と『PARADOX』の格、そしてゲストの格にあわせて用意された高級品と言われるそれらではなく、意外なビールのオーダー。


オレはドリンクや軽食の乗ったワゴンの横を通りすぎて、備え付けの冷蔵庫からビンビールを取り出しグラスに注いだ。


あなたは目の前に置かれたグラスを手に取るとぐっとあおる。
ゴクゴクと液体が喉を下る音。
グラスを半分空けてあなたはハァーっと息を吐いた。


「あぁー、やっとoffになった!
……ついさっきまで仕事だったんで…
ビールはオレのスイッチなんです。
出来れば缶ビールをカシュッって開けたいんだけど。ここには缶ビールなんてないですもんね」


くふふっと笑うあなたはさっきまでより明らかにくつろいだ顔。


向かい側に座ったオレにさっと立ち上がってグラスを持ってきて、同じのでいいですか?と聞きながらオレの前でビールを注いでくれる。


促されてカチリとグラスを合わせると、あなたは残った半分をまた喉に流し込んだ。


上機嫌に空になったグラスを眺めるあなたを見ながら、オレはこの場にふさわしくない疑問を口にした。


「……どうして、またここに?」


言ってしまってから、ゲスト…客に対して言うことじゃないとすぐに後悔する。


だけどあなたは一瞬も間を開けることなく


「また、会いたかったから」


真っ直ぐにオレを見て言った。














つづく