頭の中で繰り返す彼の声。
『かずちゃんって言うんだ』
まるで子供にかけるような言葉。
彼はいったいオレをいくつだと思ったんだろう。
とっくに二十歳は過ぎてるのに。
その時のあの人を思い出すと胸の奥がほんのりと温かくなる。
気がつけば、ふふっと笑っている自分がいた。
彼に呼ばれた自分の名前。
今まで単なる識別のためのそれが、初めて温度を持って聞こえた。
いつか、彼に名乗れる日が来るだろうか。
『ガンバろうね』
かけられたその励ましの言葉も、
彼にしたら、通りすがりにたまたま見かけてしまった場面で。
目の前で、泥だらけで転がっている小僧に深い意味もなくかけた言葉だろう。
それでも、見過ごすことが出来ずに声をかけてしまう、優しい人。
たとえ意味はなくても、そんなひとことで馬鹿正直に頑張ろうと思ってしまうオレはなんておめでたいんだと自嘲しつつも
その日オレは久しぶりに満ち足りた気持ちで眠りについた。
頑張ろう。
どんなことがあっても、諦めずに。
だって、あの人がオレに言ってくれたから。
たとえ先の見えない毎日でも、
どんなことも真面目に一生懸命やっていれば、もしかしたら誰かが見ていてくれるかもしれない。
あの人が見てくれたように。
ここで頑張って、もしまたあの人に会えたら
借りたハンカチを返して、名前を名乗ろう。
オレは、二宮和也ですって。
胸を張って名乗れるように頑張ろう。
そう、
思っていたのに…………
つづく