今日もオレは仕事らしい仕事を指せてもらえなかった。今のオレの仕事は、掃除と皿洗いみたいな雑用が主で、唯一食材に触らせてもらえるのは、大根を洗ったり芋の皮を剥くくらいだ。


それでも、仕事は仕事だと言えばその通りだけど、これまでやって来たことと比べると……ね。


悪いけど芋の皮剥きなら誰よりも早く綺麗に仕上げる自信がある。それだけのことはやってきたつもりだ。


洗い物だって、一つ一つ丁寧に、雑用だって一切手を抜いてない。


それでも、オレの評価は上がらない。


それは当然で、
だってここの人間はオレを辞めさせたいんだから。


たった一人、この事態を打開できる人間、まあ、ことの元凶でもあるけど


オレを好きだと言った美加さんは、突然アメリカに留学してしまっていた。


もちろんオレと引き離すために、女将と社長が無理やり行かせたんだ。


しょせん高校生、親に言われれば抗う術はない。
それでも彼女なりに抵抗したらしいけど、もうオレの耳にはほとんど彼女の情報は入って来なかった。


別に彼女がいなくなって寂しいわけじゃないけど、これでオレの側に立ってくれる人は一人もいなくなったのは間違いない。








夜もすっかり更けて、今日の『水野』の営業もそろそろ終わる時間。


オレは調理場で出た大量の生ゴミの入った袋を店の裏のごみ捨て場に持って行こうとしていた。


裏口を出ようとしたところで、兄弟子にぶつかった。


正確には、ぶつかったように見せて、後ろからどつかれたんだけど。


オレはその勢いで裏口から外へ転がり出てしまった。


地べたに手をつき這いつくばるオレに向かって、奥から「おい、忘れ物だぞ」と生ゴミの袋が投げつけられた。


縛った口の隙間から生ゴミの汁がこぼれて、オレの白い調理着のズボンを汚した。


そんなオレの姿を調理場の奥からゲラゲラと嗤う声。


くだらない
こんな子供じみた嫌がらせをして何が楽しいんだ。


いちいち腹をたてるのもばからしくて、
いつまでも下卑た笑い声を上げる奴らを見ることもなくゆっくりと立ち上がった。


両手は泥で汚れていたけど、そのまま重いゴミ袋を持ち上げるとすぐ近くのごみ捨て場のバケツの中に生ゴミを入れた。


もう一度両手を見る。
払ったくらいで落ちる汚れじゃないし、この手で触ったら余計に調理着が汚れるだけだ。


ひとつため息をついて顔を上げると、そこにあの人がいた。












つづく