料亭『水野』は高級店であるが故に人を選ぶ。
だからここには○○党幹事長だの○○財閥会長だのといった肩書きのついた客が多い。
そうなると自然と他人に聞かれたくない話も多くなるらしくて、そういった秘密の会合もよく行われていた。


座敷のことは調理場には関係ないようで、実際にはお偉いお客様方に振り回されることも多い。


だいたいは料理に関するお偉いさんたちの無茶振りを叶えるために下っぱが調理場に泣きついてくることがほとんど。


中居さんの対応を待ちきれなくて、青い顔をして調理場に飛び込んでくる若い衆にこっちは慣れっこで、どんな無茶振りにも出来うる限り応える用意がある。


そうやって料理でその会合を成功させたなんてことも数えきれないくらいあって、それがまた新たな信用に繋がっている。


どんなとぼけた若い衆の言うことにも誠実に対応する。


会合を上首尾で終わらせ、相手をハイヤーに乗せた若い衆が膝におでこがつくほど頭を下げても、あくまで低姿勢でようございました。
なんて、ニコニコ笑って見送る、社長に女将に板長。


結構あんなとぼけたのが後で偉くなったりするんだって。
営業戦略だよなんて、たまに調理場に顔を出す社長のぶっちゃけ話を聞くともなく聞きながら俺たちは目の前の食材と格闘する。
そんな日常。


普段、料理人以外で調理場にやって来るのは、女将と、中居さんと青い顔の若い衆くらいなんだけど、たまにはおかしな人もいて。


常連さんで、毎回帰り際に調理場を覗いて挨拶をしていく人がいた。


料理の感想なら、板長がお客様のところに出向いて挨拶するのが普通。
調理場に顔を出すのはご法度なんだけど、よっぽど上客なんだろう。
その人は店の中をどこでも自由に歩いてた。


で、必ず帰り際に
「うまかったよ。ごちそうさん」
って調理場をぐるっと見回して、俺たち一人一人の顔を見てからそう声をかけて帰っていく。


見るからに高級なスーツを窮屈そうに着てるその人に声をかけられるのが、実は俺たち下っぱには嬉しいことだった。


だいたいは怒られるばっかりで、めったに誉めてもらえないからね。







ある日、普段はそんなことないのに、酔っぱらったのか上機嫌なその人が、何を思ったか名刺を配って歩いてた。


押し付けられたその名刺には
『PARADOX』の文字。


毎回調理場に声をかけて行く、その人が大野さんだった。


後で兄弟子に『PARADOX』がどんな所か教えてもらった。


boys clabなんて未知の世界だし、興味もない。


だけど、あの人の連れてくる客は俺が知ってる顔も多くて、有名人ってそういう趣味の人結構いるんだ。
なんてぼんやり思っただけで、オレには関係ない世界だと、名刺のことはすっかり忘れてしまっていた。












つづく







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ニノちゃんお誕生日おめでとうございます。


36才には見えない可愛さに、ニノちゃんなんて言ってますが

先日のしやがれ内でのマオちゃんとの会話。

優しい声音
柔らかい言葉
共感と労いと

間近であんなこと言われたら
堕ちてしまいますわ。



二宮和也さん

幸多い一年になりますようお祈りいたします。