「今日は天気がいいから月もキレイだね。
疲れたでしょ?
お風呂お先にどうぞ。
そのあと、もう少し飲もう?」


窓の外の夜景に釘付けになっている俺の後ろからかけられる声。


相葉くんの声も話し方もいつもと変わらない。
別に誘われている分けではない。
と、思う。


だけど、お風呂と聞いて一気に緊張する。


海外のホテルのツインの部屋に二人。


俺を特別に思っている相葉くんと、相葉くんを特別に思っている俺(くどいけど言ってはいない)


まだ、恋人じゃあない。
緊張する必要なんてない。
そうだろ、俺。


なのに


「お、お先に、どうぞ」


体がガチガチで、口も強ばってたったこれだけの言葉を噛んだ……


俺がテンパっていること、相葉くんは気づいただろうか?
おそるおそるその顔をうかがうと


「そう?
じゃあ先にもらおうかな」


ニコニコと笑いながらスーツケースから着替えを引っ張り出して風呂場に消えた。


すぐに聞こえて来た水の音を聞きながら、ボスンッとソファーに沈んだ。







どうしちゃったんだ俺は…


前から約束していたから、ダイビングをしに来ただけ。


実際、相葉くんの態度はいつもとまったく変わらない。


場所がリゾート地だっただけ。
泊まる部屋の雰囲気がいいだけ。


なのに……これじゃあまるで……


…………期待してるみたいじゃないか


雰囲気に流されて?
いい年の男が?


いやいやいやいや
ないないないない


心を落ち着かせる術を探して、俺は立ち上がると窓辺に寄って行った。


海岸線の明かりとは対照的な真っ暗な空間に、時々キラキラと輝く塊。
打ち寄せる波に月明かりが当たって光っている。
なんか幻想的……









「出たよ~
潤も入っておいでよ」


ぼんやりと窓の外を眺めていた背中に、
やたらあっけらかんとした声がかかって、思わず飛び上がった。


振り向くと、寝間着代わりのTシャツとハーフパンツ姿で濡れた頭をタオルでゴシゴシ擦りながらニコニコしている相葉くん。


ほら、この人はいつもとまったく変わらない。


ここで、俺とどうこうなろうなんて、これっぽっちも考えて………
いるような気がするけど……


でも、それは場所がここだからってわけじゃない。
この人は外堀埋めて雰囲気で流そうなんて考えない、と思う。


シたかったら、シたいとストレートに言う人だから。


だいたい、俺の気持ちがはっきりするまで待つと言ったからには曖昧なまま先には進まない。


真っ直ぐな人だから。



って、結局また同じこと考えてる……






「……お風呂、入ってくる」


俺はぐちゃぐちゃの頭を抱えて風呂場に逃げた。








つづく