「ねぇ、どうして海外?」
「日本は冬だから、寒いでしょ?」
国際線の飛行機の中、隣のシートでご機嫌に鼻歌を歌いながら雑誌をめくる人。
充分広いはずのビジネスシートでも若干窮屈そうな長い足。
脱げば凄いのに、服の上からでは華奢に見える上半身の、その上に乗った小さな頭。
雑誌に視線を落とすことで際立つ長い睫毛。
海外旅行も慣れているのか、くつろぐ姿が板についている。
それに引き換え、生まれて初めてのビジネスシートにわけもなく緊張している俺。
目の前の彼が大きな花束を持って現れた俺の誕生日にした約束。
俺とムロくん二人だけでやっているレストランは、結局店を閉めるわけにはいかなくて、秋休みは作れなかった。
そのまま冬が来て、クリスマス、年末年始の激務にまずムロくんがねを上げた。
俺も、さすがに二人だけで店を切り盛りすることに限界を感じていたから。
幸い客数も増えて業績は順調に伸びている。
思いきって料理人とフロアを一人づつ増やした。
そうしてやっと取れるようになった連休。
それを相葉くんに言ったら、
いきなり
「パスポート持ってる?」
と来た。
一応持っていると答えると、あれよあれよという間に日程が組まれ、今、空の上にいる。
だいたい、俺の休みの相談を本人を通り越してムロくんとするってどういうこと?
ムロくんも
「シェフに任せていたら、いつまでたっても休み取らないし。
あなたが休まないと、俺も休みずらいでしょ」
なんて言われて、勝手に連休を入れられた。
レストラン『cousin's』の店主は俺だっての!
確かに、新しく雇った料理人、二宮くんは頼りになる。
あちこちのレストランやホテルを渡り歩いた彼は、洋食やイタリアンはもちろん和食や中華までこなす。
あっという間にうちの味も覚えたし、器用で要領も良くおまけに客あしらいも上手い。
彼のお陰で俺は安心して店を空けられた。
ああ、もちろんムロくんも頼りになる、と言っておこう。
だから、今ここにいることに何の不安もないはずなのに
二人きりの旅行というだけで、緊張感はんぱないんだけど……
つづく