「うそっ!これ、全部雅紀が作ったの?」


俺は今、1階のダイニングで雅紀の手作りだという湯気の立った料理を目の前にしている。


俺の好物のフレンチトースト。
フレンチトーストがパンだっていうのは分かるけど、いったいどうやって作るんだろう?


それから、トマトの乗ったサラダとウサギの形に切られたリンゴ。

物心ついた時から、食事は使用人が作る物だった。


お嬢様育ちの母親は、一度もキッチンに立った事はない。


出されるのは栄養管理された、見た目も一流レストランで出されるようなメニュー。


仕事として作られた、それにウサギのリンゴは無かったから。


独り暮らしの今でも、俺がキッチンに立つのは水割りを作る時位だ。





焼きたてのフレンチトーストを口に入れれば、これが美味くて止まらなくなる。


リンゴをウサギに切る雅紀。
俺の食べっぷりに嬉しそうに微笑む雅紀。


ほんの少し話を振れば、小さい頃におふくろさんに教えて貰ったと言う。


きっと温かい、キチンとした家庭で育ったのだろう。


どんなに調べても、辿り着けない雅紀の過去。


どういう経緯でドン(首領)の所に来ることになったのかは分からないけれど、このままでいいはずはない。


俺は、俺達の未来だけじゃなく、雅紀自身の将来も考えたかった。


「ところで雅紀
これからのことなんだけど……」



雅紀の作ってくれた食事をあっという間に完食して、美味いコーヒーを飲みながら話しをしようとした。


その時、


バンッ!!
と大きな音を立ててドアが開いた。


驚いて、二人一緒に音のした方を振り返ると、
ドアの向こうで場違いな笑みを湛えた東山会長がこちらをじっと見ていた。


もう来たのか。
思ったよりも早かったな。


俺は微笑みの奥にある威圧感に負けるものかと、その端正な顔をグッと睨み返した。







≡つづく≡