「かずさん……大丈夫?」
「…………」
「かずさん!?」
かずさんの身体に何かあった?
俺は慌ててかずさんの頬を擦ったり、肩を揺すったりした。すると
「………心配性。大丈夫、ちょっと浸ってただけ」
俺の顔をジロッと睨むと、またさっきの遠い目をする。
そんなかずさんは、俺と向かい合ってはいるけれど俺を見てはいない。
きっと、自分自身と向き合っているんだろう。
俺を見ないまま、口を開いたかずさんがポツリ、ポツリと言葉を紡ぐ。
「オレさ…ずっとね……ずっと思ってたの
この身体でさ……他人と…愛し合える訳ないって。
身体が…繋がれないなら、本当の意味で、心を繋ぐなんて無理じゃないかって」
「……うん」
かずさんがこれまで独りで生きてきた、途方もない時間を思う。かずさんは何にも悪くないのに、負った宿命を思う。
だけど、かずさんはその宿命に勝ったんだよ。過去には戻れないけれど、これから先は何だって出来るんだから。
まだほんの少し汗ばんでいる華奢な肩を抱き寄せると、俺の腕の中でほんの少し身動ぎした。
「……ひとつになるって、こんなに気持ちいいんだねぇ」
漂っていた視線を俺に合わせて、蕩けるように微笑む。それはきっと、かずさんの素直な気持ちで……
その顔はとても幸せそうで……
そんなかずさんが見られて嬉しくて……
嬉しい……けれど……
白い肌を桜色に染めて、そんなに潤んだ瞳で見つめられたら
せっかく押さえ込んだ俺の欲が復活してしまう。
逸らしたくはないけれど、俺はかずさんの瞳から視線を外した。
「かずさん、初めてだったのに、身体は辛くなかったの?」
言われてかずさんが自分の身体を見回して、ちょっと考える。
「……うん、辛くはなかったねぇ」
「じゃあきっと、かずさんと俺は身体の相性もいいんだね」
わざとおどけて言って、くふふと笑った。
「身体の相性って……恥ずかしいセリフ。
ねぇ、それより、まぁくんまた"さん"が付いてるよ」
ああ、そういえば……
と、考えてみるけれど
「うーん、やっぱり、俺にとってかずさんは
"かずさん"なんだよね。
"さん"まで付いててかずさんだから……
変えるのは無理みたい。
諦めてよ、かずさん」
「なんだぁー
恋人から呼び捨てにされるのって、ちょっと憧れだったんだけどなぁ。
まぁ、いいか。ふふっ」
それから、もうシャワーに行く力が残っていないというかずさんの身体を綺麗にしてパジャマを着せると
かずさんはあっという間に俺の腕の中で眠りに落ちていった。
俺は、俺の腕を枕にして眠っているその顔を
ずっと見ていた。
心の何処かに、もしも眠っている間にかずさんが急変したらという不安がずっとあって、眠気がやってこない。
今夜かずさんに異常が起きなければ、少しは安心出来るのかな。
手放しでの幸せな夜はもう少し後になりそう。
俺は、すっかり俺に身を任せて深い眠りに就いているかずさんをそっと抱き締めた。
その夜、俺が眠りに就いたのは、空が明るくなり始めた頃。
寝返りを打ったかずさんが俺の身体に乗り上げて、覗き込んだかずさんの安らかな寝顔を確認してからだった。
つづく