病院というところは盆も正月も無くて、もちろん休暇とか連休とかも関係なくて。




ナースステーションは朝から慌ただしかった。


申し送りをして、朝のルーティンをこなしていく。


ナースの一人が連休明けだろうと、そのナースに一大事が起きていようと、病院の日常が変わるわけではない。


間違いの許されない仕事。
ともすれば家に残してきたかずさんへと飛んで行きそうになる気持ちを、何とか目の前の仕事に押し留める。


1件のナースコールを片付けてナースステーションへと戻る途中の廊下でこちらに歩いて来る人に気が付いた。


忙しいはずなのに、まるで散歩でもしているように、窓から射し込む日射しに眼を細めぶらぶらと歩いて来る。


その人も俺に気付いて片手を上げた。


「よっ!」


「今日は病棟ですか?大野先生」


「ん~、これから手術が2件かなぁ?
急患がなければ、今日はそれで終わり?」


自分のスケジュールなのに、何で疑問形なの。
話し方はこんなでも腕はいいと評判で、最近では大野先生に手術をして貰う為に、わざわざ遠くからやって来る人もいるという。


「それじゃあ、こんなところで油売ってる場合じゃあないでしょう」


オペ看でもない俺が言うことじゃあないのに、この人にはつい余計なことを言ってしまう。


「だって、患者が手術室に入るまで、俺の仕事ねぇもん。
それより……」


ニヤニヤニヤニヤ


手術前だって言うのに、全く緊張感のないこの人の、この顔は……


きっとろくな話にならない。
早くこの場から離れた方がいい。
頭の中に警報音が鳴りだして


「それじゃあ、俺はこれで」
「ニノ、帰って来たんだろ?」


逃げ出す前に捕まった………


「……帰って来ましたよ……」


しぶしぶ問いに答える。


「相葉ちゃん、連休だったよなぁ~」


「そうですけど……」


ニヤニヤニヤニヤ
……嫌な予感しかしない。


「2日間、ベッドから出ないでヤリまくってた、ってかぁ~?
いいなぁ、新婚は」


………やっぱり
朝からどうしてあなたの思考はそっちに向かうんですか!
だいたい、ここは病院の廊下ですよ、
まったく、この人は。


「新婚でもないし、ヤリまくってもいません!そもそも何もしてませんから」


この人のテンションを下げるように、敢えて冷静に答えた。


「はぁ?……なんにも?」


「なんにも!」


ポカンと開いた口。
目が点になるっていうのはこういう顔ですよってお手本のような顔。





そのまま絶句して、俺を凝視する事十数秒、
やっと口を開いたと思ったら


「今日の終業後、副院長室に来るように」


やたら真面目な顔で言われた。


「ええ!?家でかずさんが待ってるんですよ」


「そんなのは、分かってる!
いいな、絶対だぞ!
副院長命令だからな!!」


俺に人差し指を押し付けて、下から睨み上げると、くるりと向きを変え白衣を翻して行ってしまった。


普段は副院長扱いされるのを嫌がるくせに、こんな時にだけ権威を振りかざす。


副院長にそう言われてしまえば、ただのナースの俺が逆らえないのを分かっているんだ。


ずるい!








それでも、


『帰るの少し遅くなりそうです。』


俺は仕方なく、昼休みにかずさんにそうラインを送った。










つづく