真夏の日差しもようやく傾いてきて、辺りに肉の焼ける香ばしい薫りが漂い始めた頃


俺達と話をしながら、チラチラと川を見ていたニノが


「あんのバカ!」


と、ひとこと言ったかと思うと、サッと立ち上がって川に向かって走りだした。
その手にはブランケットを抱えたまま。


今の今まで根っこが生えたようにイスから動かなかったニノが、突然、しかも余りに身軽に走り出したから一緒にいた俺達は、いったい何が起きたのかとその背中に注目する。


当のニノは俺達なんかお構いなしに川に向かって一直線で


「この、あいばかーー。
いい加減に上がれー、唇真っ青じゃねーかー」


と、お怒りモード


「はいはい、もう陽が暮れるよ、他のみんなも終わりにしてねー」


一応気を使っているのか、テニス部の野郎共にはにこやかに言ってるけど、


声に気付いた雅紀がジャブジャブと川から上がってきて


「さっぶー」


と、自分の身体を抱え込んだ、その頭をペシッと叩いた。


冷たい川の水に浸かり過ぎたんだろう。
顔は蒼白で、ニノの言うとおり唇は紫色になっている。


ただ本人は相当楽しかったらしく、ニノに向かって満面の笑み。


ニノはというと、自分に向けられた笑顔も興奮ぎみに伝えられる川遊びの楽しさもまるっと無視すると、ずぶ濡れのゴールデンレトリバーのTシャツをベロッと脱がし、ずっと抱えていたブランケットをその頭にバサリと掛けた。


………


俺達が防寒のためのブランケットだと思っていたのは、濡れた雅紀を拭くためのバスタオルだった。


ここからは聞こえないけど、どうやら文句を言いながら雅紀の身体をガシガシ拭いているニノと


さんざん小言を言われているだろうに、嬉しそうに拭かれている雅紀。


そのうちバスタオルを腰に巻いて、その場で水着を脱ぎだした。


「ここで?」


他人の目は気にならないのか?
だいたいあいつ、着替えなんて持ってたか?


首を捻る俺の肩を隣の智くんがチョンチョンと叩いて、ほらっ!とニノの方に向けて顎をしゃくった。


見ると、どうやらすっぽんぽんになったらしい雅紀に、どこから出したのか着替えを差し出すニノの姿。


当たり前のようにそれを受け取ってバスタオルを外し、またもやニノの手に現れたTシャツとパーカーまで着て乾ききらない頭を拭いている。


その間にニノは、濡れた雅紀のTシャツと海パンを絞って袋に入れ、こっちを指差しながら雅紀に何か話している。


と、他のテニス部員の面倒を見に行ったニノを残して、雅紀がこっちに向かってゆっくりと歩いて来た。







ンフフッ


智くんが隣で笑う。
何?と隣を見ると


「翔くん気が付かなかったの?
ニノがずっと膝の上に置いてたのは相葉ちゃんのバスタオルと着替え。
あいつ、ここで俺達と話ながら、目はずっと相葉ちゃんを、追ってたよ。
コーヒー用意させたのも、川で冷えた相葉ちゃんに飲ませるため。
ほら、帰って来た。翔くん注いでやって」


驚いた


智くんに言われて見ると、目の前でシュンシュンと音を立ててお湯が沸いていた。





ちょうどやって来た雅紀が、当たり前のようにニノの座っていたイスに腰掛けるからコーヒーを淹れてやった。














つづく



次回最終話です