外はとうとう本降りになって、初雪なのに積もりそうな勢い。
それと共に家の中の温度も下がっていく。
「かずさん、寒くない?
部屋の温度上げようか?」
俺が聞くと
「ううん、このくらいなら大丈夫。
無闇に室温上げたら灯油が勿体ないよ」
と、徐に立ち上がったかずさんが、白いスーツケースからグリーンのニットのカーデガンを出してきて羽織った。
ニットを着るかずさんは初めて見る。
姿は7年前と変わらないのに、こんなところにもかずさんの7年を見たようで……
確実に時は流れているのに、過去を気にする俺が凄く小さく見えるけれど、ここをうやむやに流してしまったらきっと本当の意味で前には進めないから
「………かずさん」
ジャスミンティーを口に含んで、美味しいと頬を緩めるかずさんに問いかけた。
「んっ?」
目だけで俺を捉えて微笑むかずさん。
「……どうして、アメリカに行くこと、俺に言ってくれなかったの?」
カップを持つカズさんの手が、ピクリと震えた。
けれど、それはほんの一瞬で、かずさんは俺から視線を外して薄く目を伏せた。
それは、かずさんがいなくなる直前のベッドの上の表情と同じだった。
「……理由、潤に聞かなかった?」
抑揚のない声。
「聞いたよ。
今回の治験は賭けだからって。
かずさんが治るかもしれないって、希望を持ってしまったら、ダメだった時に俺が辛い思いをするからって」
「そのまんまだよ」
俺を見ないかずさんを、俺はじっと見つめて言葉を繋ぐ。
「だけど、もしも上手くいかなかった時、俺より辛い思いをするのはかずさんでしょ?
その時は、俺がかずさんの側にいて支えてあげたいよ。
何も知らなかったら、支えることも出来ないよ」
「………側になんて、いなかったでしょ。
オレが目が覚める前に、まぁくんは離れることを決めてたじゃない」
改めてかずさんが俺を見る。
今まで見たことのない強い視線が俺を射した。
「分かってるよ。
まぁくんがオレとの別れを決めたのはオレを生かす為。
だけど、オレが目を覚ました時には全てが決まってた。もう、決定事項。オレの意思なんて挟む隙間もなかった。
まぁくんも、潤も、ううん周りじゅうの誰もがそれが唯ひとつの道みたいに言うんだ。
……ふふっ、それがね、ちょっと腹が立ったの」
「その時、俺は治験の話を知らなかったから……」
かずさんがそんなふうに考えていたなんて、思いもしなかった。
ただ、かずさんの為にって選んだ選択が間違っていた?
それでも虚しい言い訳が俺の口から出る。
言い訳、そうだよ言い訳だ。
俺はあのとき、かずさんと話をしようなんて全く思ってもいなかったんだから。
「オレはね、別にまぁくんを責めてるわけじゃないんだよ。
黙ってアメリカに行ったのはオレのエゴ。
まぁくんの優しさに勝手に腹を立てて、じゃあ、独りで戦って勝ってやるって」
かずさんは過去を振り替えって、穏やかな笑みを浮かべている。
それに引き換え、俺はたった今知った真実に打ちのめされていた。
「ごめん……かずさん……ごめんなさい」
なんて自分勝手な俺。
かずさんのためなんて嘘じゃあないか。
結局俺の自己満足のためだけに、勝手に別れを決めたんだ。
それがかずさんを傷つけていることにも気付かずに……
つづく