「う~、さっむい!」


夜勤明けで病院を出ると、どんよりと曇った空。


吐く息は白く、厚いダウンを着ていても身体の芯から凍えそう。


今日は雪になるかもしれない。


何年もこの雪国で暮らしてきたんだから、対策は万全で、車もとっくに雪道仕様になっている。


たけど、早く帰ろう


暖かいあの家へ


明日、明後日は連休。


久しぶりにかずさんの家でゆっくりできる。


俺は日用品や、食料を買い込んで通いなれた道をかずさんの家に向かった。


綺麗に整えられ、冬支度も終わった花壇を通り抜けて車を車庫に入れる。


車から降りて外を見ると、チラチラと白いものが舞い降りていた。


思わず天を仰ぎ、初雪に両手を差し出した。







不思議だね


もう何年もここにいて春も夏も秋も何度も過ごしているのに、雪を見るとかずさんをより身近に感じる。


二人で過ごしたのが冬の季節だったからなのか


雪で埋もれたこの家の中で、世界中でたった二人だけのように、お互いだけを見つめていた日々。


お互いだけになりすぎた結果が、今、俺が独りでここにいるっていう事なのかもしれないけれど。


あの時のあの時間は、確かに今でも俺の大切な大切な宝物なんだ。


かずさんと過ごしたたった数ヶ月が、その後の俺の人生を決めてしまったように。


ヒラリヒラリと手のひらに舞い落ちて、瞬く間に消えて行く白く淡い粒。


俺は跡形も無くなったその粒ごと、自分の手のひらをギュット握り締めた。


音もなく降り続ける雪の中にかずさんの笑顔が浮かぶ。


ぼんやりとボヤけて輪郭もハッキリとしなくなった、それでもその顔はかずさんで


それを思い浮かべるだけで幸福感で満たされてしまう自分に、枯れてるなぁとも思うけれど


俺が満足なんだからそれでいいとも思う。








病院を出たのは朝だったのに、買い物をしていたらもうすぐお昼の時間になってしまった。


昼ご飯は軽く済ませて、少し寝ようかな。
冬越しの準備は万全だし、このまま雪が降るなら明日は家の中で出来ること、煮込み料理でも作ろうかな。



なんて考えながら玄関に向かった。


いつものようにカラシ色の革の付いた鍵を鍵穴に差し込む。


??


違和感……





何故か




玄関の鍵が開いていた。













つづく