閉店後の誰もいなくなった店内。
ごく限られた照明の下で後片付けをする。
食器、調理器具を洗い、調理場を磨き上げる。
あとは、フロアか
独りで全部やるとなると、こんな小さな店でもなかなかの重労働だ。
椅子を上げながら時計を仰ぎ見ると、もうすぐ日付が変わる。
いつもと同じ一日。
だけど、忙しくて充実していた、うん、今日もいい一日だった。
胸の隅の寂しさは見ないことにする。
明日の仕込みも終わってる。
あとは、帰って寝るだけ。
疲れたな。
そう思った途端、肩が落ちて身体がグッと重くなった。
上げたばかりの椅子をひとつ降ろして座り込む。
と、突然入り口のドアがガチャガチャと音を立てた。
ーーあれ~開かないよ~何で~ーー
ドアの向こうから聞こえる声に飛び上がった。
疲れは、何処かに消えていた。
大急ぎで内鍵を開ける。
目に飛び込んでくる満面の笑顔。
心臓がトクンと鳴った。
「間に合った?」
言いながら俺をグイグイ押して店の中に入り、当たり前のように内鍵を掛ける。
「……相葉くん、どうして?
今日仕事でしょ?
この間、また来週って言ったじゃない」
金子様に待ち人来るって言われて、あなたの顔が浮かんだけど、現実にそんな事あるわけないって思っていた。
戸惑う俺をよそに相葉くんは肩に担いでいた、でっかい荷物を俺の胸にバサリと押し付けた。
「潤、誕生日おめでとう」
抱えきれない程の真っ白い薔薇の花束に埋まった俺に向けた、蕩けるような優しい眼差しに顔が赤くなるのが分かった。けど……
「…ありがとう。
って、ねぇ俺の言ってること、聞いてる?」
これはケーキね~、ってテーブルの上に何人分入ってるんだろうっていう、大きな箱を置いている人に詰め寄った。
「だって、今日は潤の誕生日でしょ?
そりゃあ来るでしょ。
あ~間に合って良かったぁ~」
時計を見上げて、安堵の、笑顔。
トクン、また心臓が鳴る。
「だって、明日も仕事……
だいたい何で俺の誕生日知って……」
「そう、明日も仕事だからあんまりゆっくり出来ないの。
誕生日?ああ、コウちゃんに聞いた」
「……コウちゃん?」
「あ、えっと~幸田さん?だからコウちゃん」
「幸田様がコウちゃん?
それで、何で幸田様が俺の誕生日を相葉くんに?」
もう訳が分からない。
目を白黒させるしかない俺。
相葉くんは、そんな俺をまあ座んなよと肩を押して椅子に座らせた。
「結構話が合うんだよ。
コウちゃんとキンちゃん、最近は俺の店にも来てくれるんだよ。
ああキンちゃんは、金子さんね。
カネコだからカネちゃんかなと思ったけど、カネって何かねぇ、だからキンちゃん」
いや、そこはどうでもいいんだけど……
「話してる時にさ、もうすぐ潤の誕生日だって言うから、日にち聞いたらホントにすぐで、ごめん何にも用意出来なかったよ。
来年は休み取ってちゃんとやるからね」
………えっ、来年?
つづく