台所仕事を終えたお母さんも食卓について一緒に飲み始めた。


そうすると、そこはもうお母さんの独壇場で、俺達はもっぱら聞き役になる。


話の殆どは俺達の事で、特に俺は一緒に暮らしていない分、心配をかけているらしい。


ちゃんと食べているの?
と毎回聞かれる。


俺的にはちゃんと食べているし、消防団の訓練にもついていけるようになった。


以前よりもずっと健康的になったと思うんだけれど…







そうこうしているうちに、お父さんが居眠りを始めた。


それでも離さないグラスをお母さんが取り上げて


「潤、まさちゃんお父さん寝室に連れてって」


と言うので、二人で両脇からお父さんを抱えてベッドに寝かせた。


戻ると


「うちにはいい息子が二人もいるから助かるわぁ」


ニコニコしながらビールのグラスをグイッと空けた。


お母さんの飲みはこれから。


「上手いこと言って、こき使うんだから」


潤は不満顔だけれど、俺は潤と同じように接してくれることが嬉しかった。





三人で話をしながら飲んで夜が更ける。


そろそろお開きとなって、お母さんが作ってくれた明日の朝御飯を持って潤の家を出た。


敷地の広いこの地方の農家、たとえ隣の家でも少し歩かなければならない。


ダウンの上着を羽織っても夜の寒さが見に染みる。


身体を丸めてお酒の火照りを逃がさないように、小走りにかずさんの家に向かう。


その先で外灯の明かりに浮かぶ庭に足を止めた。


この7年でかずさん家の庭は随分と変わった。


花壇を整え、毎年少しずつ庭木や花を増やし、今は四季折々の花が咲き乱れる庭になった。


さすがに真冬は雪に埋もれてしまうけれど。


自己満足で作り、冬支度を済ませた庭を過ぎて玄関を開け、


もう大分古くなってしまった、カラシ色のキーホルダーの付いたこの家の鍵を靴箱の上のトレイに置いた。


俺は、普段はばあちゃん家から仕事に通い、休みの日にはかずさん家で過ごす生活を、この7年間ずっと続けてきた。


ゲストルームに戻したベッドで夜を過ごし、朝目が覚めると朝御飯を食べて掃除をする。


この家は、家具も家電もあの頃のまま。


カーテンやカバー類は古くなった物は買い換えたけれど、色も素材も元あったものに近いものにしている。


そして、この家の温度も湿度もあの頃のまま。


いつ、かずさんが帰って来てもいいようになっている。









あの後、俺がどんなに聞いても潤はかずさんの行方を教えてくれなかった。


携帯も解約されていて、連絡を取ることも出来なかった。


かずさんの秘密主義は相変わらずで、残された俺の気持ちなんか考えていないのか


結局俺はかずさんにとってそれだけの存在なのか、と思うと情けなくなった。


じゃあ、カラシ色の鍵の意味は?


待っていてもいいっていうことなのか?


何処に、何をしに行ったのかも、いつ帰ってくるのかも分からない


まして、かずさんの気持ちも分からないのに……


潤の家で療養している間、そんなことばかりグルグルと考えていた。


いくら考えても答えは出なかったけれど……







ところが、喉から手が出るほど欲しかったかずさんの情報を、後日あっさりと知ることになる。












つづく