手袋も何も着けていない、素手でかずさんに触れるのは初めてだった。
かずさんにとってそれが毒だと分かっている筈なのに、かずさんは俺の手を強く握ったまま離さない。
「…やだ……やだ…
やっぱり、ダメ!
まぁくんと離れるなんて、絶対やだ!!」
頭を左右に振りながら繰り返す。
「ごめん。
やっぱりオレはまぁくんを手離してあげられない……」
涙を流し続け、俺の手を握って叫ぶように言うかずさんを見つめ返して、
こんな時なのに、本当は早く対処しなきゃあいけないのに、
かずさん、俺は嬉しかったんだ。
別れを受け入れないかずさんに、
取り乱して俺を離さないって言ってくれるその言葉が、本当に嬉しかったんだよ。
涙は後から後からかずさんの頬を伝い、その痕が紅い筋になってかずさんに刻まれる。
もう、かずさんは涙を拭うこともしなかった。
立ち上がったかずさんが、自分のパジャマのボタンに手をかける。
襟元からひとつずつ外されたボタン。
やがてパジャマの上着がパサリと床に落ちた。
「…いいよ。……まぁくんのやりたいようにして」
夢の中と同じかずさんの裸を目の前にして心臓がドクドクと脈打つ。
けれど、身体の反応とは裏腹に、思いもよらない現実を前に俺は戸惑いの方が大きかった。
「そんな事言っちゃあダメだよ、かずさん」
「どうして?
オレを抱きたいんでしょ?
いいよ。まぁくんにオレをあげる」
かずさんの両手が俺に差し出される。
けれど、俺はその手を取ることが出来ない。
「ダメだよかずさん。服を着て」
そんな俺にかずさんは悲しそうに首を振って
「オレだって、ずっとまぁくんと抱き合いたかった。
ずっとずっと我慢して、諦めてきた。
もう、我慢するのはやだ」
「だけど、そんな事をしたらかずさんの身体が……
俺は、かずさんが大事なんだよ。
かずさんの身体が大事なんだ。」
俺の言葉にかずさんの顔が曇る。
差し出していた両手を降ろしてぎゅっとパジャマのズボンを握りしめた。
「からだ、からだ……みんながそう言う。
じゃあ、オレの心は?
身体のためにまぁくんと別れて、オレはまた独りになるんだ。
嬉しいも楽しいも何もない、ただ命を長らえるためだけに生きる日々に戻るんだ。
分かる?
周りの人間を悲しませないためだけに生きるんだよ。
そんなの身体は生きてても、心は死んだも同じじゃない。
オレはもう、そんな日々に戻るのはいやなんだよ!」
かずさんの頬を伝った涙が顎の先からポタリポタリと落ちて行く。
病気の影響か興奮しているからかかずさんの息が荒い。
それでも、尚も続けようとカズさんが口を開く
「まぁくんのいない明日なんていらない!
オレには今だけでいい!
オレはもう我慢なんかしない。
まぁくん!オレを抱いてよ!!」
叫ぶようにそう言うと、全てを脱ぎ捨て、俺の胸に飛び込んできたかずさん。
狂おしい程に望んだ身体が、今手の中にある。
俺はその白く柔らかな身体をそっと抱きしめた。
つづく