「ねぇ、潤さぁ
その髪、長くない?」
今日も山盛りのネギの乗ったしらすスパゲッティーを頬張りながら、下から覗きこむように俺を見る相葉くん。
ついこの間名乗り会ったばかりなのに、もう『くん』が取れているし。
まぁ、不快じゃあないからいいんだけど。
「ポンパも可愛いけどね。
これから暑くなるから少しサッパリしない?」
いやいや、いい歳の男に可愛いはないでしょ。
だいたい、この顔立ちは可愛いとは対極にあると俺は思ってる。
世間の認識だってそうだと思うけど。
「別にこだわりがある訳じゃなくて、ただ切りに行く時間がなくて」
「じゃあ、俺が切ってあげるよ。
俺ね、美容師なの」
慣れた手つきで名刺を差し出された。
はあ?
俺、今、時間がなくて髪が切れないって言わなかった?
微妙に会話が噛み合ってない気がする。
首を捻りながら渡された名刺に目を落とす。
「えっ?【S&S】?」
【S&S】って言えば、芸能人も多く通ってると噂の有名店じゃないか。
「俺ね、これでもそこのナンバーワンなんだよ。
サービスするから、今度の定休日においでよ」
あれよあれよという間に予約するはめになった。
案の定、振り回されてるなぁ俺。
若者の街のど真ん中にある美容室【S&S】。
やって来たのはいいけど、どこを見てもおしゃれな人ばかり。
イケメンシェフなんて雑誌に取り上げられてはいても、実際には修行中は料理のことばかりだったし
店を持ってからだって経営を軌道に乗せることに必死でおしゃれも流行も気にしている暇はなかった。
取り敢えず相手を不快にしなければいい、という格好でいる俺は、あまりに場違いで気後れしてしまう。
この場の雰囲気に怯みながらも受付に向かおうとすると
「じゅーーん!」
独特な鼻に掛かった、でっかい声。
それと一緒に店の奥からいつもの笑顔が近づいてきた。
相葉くんが現れると、店内の女性客が色めき立つのがわかった。
相葉くんの動く方向へと彼女たちの視線が追う。
ここも彼のファンだらけなんだな。
分かる気もするけど。
ニコニコと歩いてくる相葉くんは、もちろんうちの店に来るときとは違って、白いシャツに細身の黒いパンツ。
腰に提げた用具入れさえアクセサリーのようにキマッテいる。
何処から見てもカッコいい。
本人は女子達のそんな視線には慣れっこなのか、気にする風もなく
「いらっしゃいませ!
時間ピッタリだね。こちらへどうぞ」
スマートに、磨き込まれた鏡の前に案内された。
つづく
