次の日、ベットの中で言ったとおりかずさんは玄関で見送ってくれた。
朝起きておはようと言ったかずさんは、今までよりもずっと肩の力が抜けて見えた。
きっとより素に近いかずさんなんだろう。
それを感じられて嬉しくなる。
別に今までが作っていたり演じていたという訳ではないけれど、出会って間もない俺達だから、やっぱり何処か遠慮したり無理したりするところがあるんだと思う。
それは当然のことで、だから
これからもこうやって一つ一つお互いを知っていけたらと思う。
仕事帰りにスーパーに寄っていたら帰りがいつもより遅くなってしまった。
いつもはチャイムを押すとかずさんがドアを開けてくれるのだけれど、今日は自分で鍵を開けて家の中に入って行った。
ガチャッという玄関ドアの開いた音にかずさんが出てくる。
「ただいま」
かずさんの顔を見ると、自然と笑みが浮かぶ。
いつもと違う様子に、ほんの少し強ばっていたかずさんの顔が俺を見て緩んだのが分かった。
「どうしたの?自分で開けて入ってくるなんて、珍しい。遅くなったから焦った?」
もういつものかずさんで、そんなかずさんに
「ううん。これ、見て」
と、かずさんから預かったこの家のスペアーキーを見せた。
「あれっ?キーホルダーが付いてる」
それは、モスグリーンに着色されたシンプルなデザインの革製で、『MASAKI』と俺の名前の焼き印が入っていた。
「今日ね、帰りに寄ったスーパーで、出張販売している革のお店があってね、作ってもらったの。」
「へー、シンプルだけどいいね」
「そう?
かずさん手出して」
俺はポケットから出したそれをかずさんの手のひらに乗せた。
それは、俺のと色違いのカラシ色の革に『KAZUNARI』と焼き印が施されていた。
「これ、オレの?」
かずさんが自分の手のひらと俺を交互に見て言う。
「うん、俺のと色違い。
かずさんの鍵に付けてもらえたらなって
思って」
お揃いの物が持ちたいなんて、子供っぽいかな?もしかして引かれちゃうかなと多少の不安はあったけれど
かずさんはいそいそと財布の中からかずさんの鍵を取り出して、カラシ色のキーホルダーを付けた。
そして、それを目の高さにかざし左右に振って俺に見せ
「ありがとう!まぁくん」
花が咲くように笑ってくれた。
こんな安物の、なんて事のないプレゼントに
こんなに喜んでくれるなんて。
俺の方がありがとうだよ。
ー それから、この二つの鍵は玄関の靴箱の上のトレイに並べて置かれる事になった ー
夕ご飯の後かずさんが
「明日ね、翔ちゃんから検診に来いって連絡あった。だから、まぁくんの出勤と一緒に病院に行って、仕事が終わるまで待ってるね。
一緒に帰ろう?」
定期検診にはまだ間があったはずだけれど……
櫻井先生も退院後の様子が気になっているんだろう。
それにしても
「俺の終わりを待ってるって、かずさん仕事あるし、だいたい病院の空調はかずさんには毒じゃあないの?」
どうしても身体への心配が先に出てしまう。
そんなことはお見通しだとばかりに
「仕事はこれがあれば何処でも出来るって言ってるでしょ」
愛用のノートパソコンをトントンと叩いて
「それにまぁくんが終わるまで大野さんの部屋にいるから」
「副院長室に?」
「そう。
検査は待たされることが多いからね、いつも待つのはそこだから大丈夫。
翔ちゃんにも了解取ってあるから」
俺の心配を見越して、かずさんが完璧な返答で胸を張る。
かずさん、いつも副院長室にいるんだ…
でも、櫻井先生が了承しているなら……
「じゃあ、帰りドライブしながら帰ろうか?」
「ホント?
あっ、じゃあオレが良いところに連れて行ってあげる。
んふふー、楽しみ」
明日は思いがけずドライブデート、
かずさん俺もすごく楽しみだよ。
つづく