あーあ、やっちゃったぁー


怒らせちゃった……


でも、言わなければいけない事だと思ったんだ。


だから、ここは俺も引けない。


こんな状態でかずさんが俺を呼んでくれるとは思えなかったから


俺は時間を見計らって脱衣場のドアをノックした。


風呂上がりのかずさんの背中に薬を塗る。
どうしてもこれは俺の役目にしたかった。



今は、自分で出来ると言っているかずさんが、いつか俺がいないと困ると言ってくれるように。


かずさんに必要とされたかった。


だから、どんな状態でも、たとえケンカの最中でも、これだけは俺がやると決めていた。






中から返事はなかった。


コンコン!
もう一度ノックする。


すると、カチャリと音がしてほんの少しドアが開いた。


無言の中に入ると、そこには裸のかずさんの背中があった。









薬を塗っている間中、会話は全くなかった。


昨日はあんなにドキドキソワソワしていたのに、今日はこんなにも気まずくて……


終わるとかずさんはさっさと脱衣場を出て行って、そのまま部屋に引っ込んでしまった。


相当怒ってる


取りなすことも出来なくて、仕方なく俺も風呂や片付けを終わらせて、かずさんの部屋に入って行った。


背中を向けてベッドにもぐり込んでいるかずさんに、はぁっと一つため息が出た。


俺のベッドも入って
せっかく今日からきちんと並んで寝られるというのに、初日からこれって……


「電気消すよ」


相変わらず無言の背中に声をかける。



ベッドサイドの小さな明かりだけになった部屋。


横になると布団から少しだけ出ているかずさんの頭の先が間近に見えた。


仕方がないから、今日はかずさんの後ろ姿を見ながら眠ろうと、くるりと跳ねた毛先をを見ていた。

 
すると


「………ごめん」


小さな声が聞こえた。


「かずさん?起きてるの?」


華奢な背中に問いかけると


「ごめん、分かってる、オレが間違ってる。

明日から、見送りは玄関までにする……
それから、潤にも後で謝っておく…」


消えてしまいそうな小さな声。


かずさん……


「ううん。
俺の方こそ大きな声出しちゃってごめんね。」


かずさんが折れてくれるなんて……


分かってくれたの……


「かずさん、こっち向いて?」


俺の言葉にモゾモゾと向きを変えて、俯いていた顔が上がった。


視線が合う。


ちょっとだけバツが悪そうな顔。


その顔がとんでもなく可愛い。


綺麗という形容がよく似合うかずさんだけれど、少しだけ口を尖らせて上目遣いで俺を見上げるかずさんは何だか子供っぽくて


「何で笑ってるの?」


かずさんに言われるまで、自分がニヤニヤしていることに気付かなかった。


慌てて自分の顔をごしごし擦って、そうかな?
と誤魔化してみる。


一瞬訝しそうにしたかずさんの顔が歪む。


「分かってるんだよ、まぁくんがオレを大事に思うから言ってくれてるってこと。
オレだって逆の立場ならきっと同じ事を言う。

オレ、浮かれすぎてたのかなぁ」


かずさん、ずっと考えていてくれたの?


「分かってくれて、ありがとう。
でも俺、かずさんが気持ちをぶつけてくれて嬉しかったよ。

かずさん……好きだよ」


「…………オレも」


「くふふ」


「んふふ」


さっきまであんなに気まずかったのに、
今は、見つめ合って好きだと言い合っているのが気恥ずかしくて


照れ隠しのように向かい合ったまま、暫くの間笑い合っていた。














つづく