夕ご飯の間中、俺は喋りまくっていた。


沈黙を恐れるように、動揺をごまかすように。


浮かんでしまった映像を打ち消したくて。


ほら、俺には何も後ろ暗い所なんてない、だからこんなに明るく話が出来る。


そう、かずさんに思って貰いたくて


そう、自分に思い込ませたくて……


不自然なのは分かっていた。


けれど、俺にはそうする以外にこの時を過ごすすべが見つからなかった。




そんな俺を、かずさんは何も言わずに見ていた。


時々伏せられる瞳が、何故か悲しそうに見えるのは、きっと俺の思い過ごしだ。






いつもより賑やかな夕ご飯を終えて、俺は食器を片付けながら


「かずさん、お風呂どうぞ。
上ったら出来るだけ早く薬塗らなきゃでしょ。
呼んでくれたら直ぐ行くからね」


明るく明るく、これはお手伝い、善意、だからカラッと堂々と!


心の中で自分に言い聞かせながらかずさんを
風呂へと促した。


「はいはい、分かりました。
よろしくお願いします」


かずさんは少し面倒くさそうに、だけど笑ってそう言うと風呂場に消えた。


かずさんの入浴剤時間は短い。


俺はいつ呼ばれるか気が気ではなくて、流しに入れた汚れた食器に手を付けることが出来なかった。






「まぁくーん、出たよー」


やっぱり直ぐにかずさんの声が掛かる。


コンコンとノックをしてドアを開けると、下はきっちりとパジャマを着たかずさんが、肩にパジャマの上着を掛けて、背中を向けて立っていた。


洗面台の上には、医療用の手袋と見たことのない塗り薬。


今まで何処に隠していたんだろう?


俺に知られないように、こっそりとこの薬を出して一人で塗っていたのかと思うと切なくなる。


これからは、俺が一緒に背負うから。


かずさんを一人になんてさせないからね。


改めて決意して手袋をはめた。


薬を手のひらに出して


「かずさん、背中出して」


俺の声に後ろを向いたまま、かずさんが上着を肩から落とす。


現れるホクロひとつない背中、華奢だけどほんのり丸みのある肩、存在を主張する肩甲骨、薄い筋肉の下から背骨がほんの少し浮き出ている。


本来なら透けるように白い背中が、風呂上がりで赤みを帯びている。


早く薬を塗ってあげないと。


その裸の背中にどうしても見入っていまう自分をさとられないように、肩から背中へと薬を塗り込んで行った。







「どう?塗り残しないかな?」


かずさんの後頭部に聞くと


「ん、大丈夫。
まぁくん、パジャマ取って」


かずさんは前を向いたまま、落ちた上着を指差した。


それを拾って肩に掛けてやると、袖を通してボタンをはめる。


そこで初めて俺に向き直って


「ありがとっ」


綺麗な笑顔をくれるとそのまま脱衣場を出て行った。


いつもと変わらないかずさんだった。






ほら、出来たよ。


薬塗るくらい、楽勝だって。


少し、ほんの少しだけ、心臓がバクバクいってるだけ。


これくらいのこと、我慢するのなんて簡単。


大丈夫、これからも、続けて行ける。


一人になった脱衣場で俺は小さくガッツポーズをした。











つづく