翌朝、かずさんに見送られて出勤した。
仕事をしていても昨日のかずさんが頭から離れなくて、早く家に帰りたくて仕方がなかった。
そんな俺のソワソワした気持ちが態度に出ていたのかもしれない。
「何かいいことあった?」
相変わらず白衣に両手を突っ込んでふらふらと現れた大野先生に声をかけられた。
「いえ、別に」
慌てて顔を引き締めて冷静を装うけれど
「んふふ~
恋人になって初めての夜でしょ?
そりゃあいいことあったよね~」
するすると側に寄ってきて俺の脇腹を肘でつついてくる。
「先生、かずさんの病気知ってるんでしょう?何もあるわけないでしょう」
「いやぁ~気持ちが違えば、同じ状況だって違ってくるでしょ?
二人っきりの時間、嬉しくなかったの?」
「そりゃあ、嬉しかったけど……」
「ほらぁっ
相葉ちゃんがそうならきっとニノも幸せだったんだろ。
ニノには初めての経験だから、いっぱい幸せを感じて欲しいんだよね。
相葉ちゃん、ニノのことよろしく頼むね」
なんだ、ただからかいに来た訳じゃあなかったんだ。
大野先生もかずさんの事を本当に心配している。
ねぇかずさん、かずさんの周りにはいい人ばっかりだね。
仕事が終わると大急ぎで家に帰った。
お帰り、とかずさんが笑顔で迎えてくれる。
それが嬉しくて、一日の疲れも吹き飛ぶよう。
ただ、二人の関係が変わっても、生活はそんなに変わることはなくて、家に帰って夕ご飯と風呂の用意をする。
ふと櫻井先生の言葉が頭に浮かんだ。
『風呂の後は全身に薬を塗らないといけない』
「ねぇ、かずさん」
俺は、リビングのテーブルに愛用のパソコンを置いて仕事をしているかずさんに声をかけた。
俺が帰った途端に、いそいそと自分の部屋からパソコンを持ち出してきたかずさんに、どうしたのかと聞いてみたら
俺が家にいる間は俺の気配を感じられる場所にいたいんだって。
そんなのを聞いたら、でれでれしちゃうのは
仕方がないよね。
「まぁくん、顔がだらしない」
って言われたのはついさっきのこと。
思い出すとまた顔がにやけてくるけど、今はそうじゃなくて
「かずさん、お風呂上がりって身体に薬を塗ってるんだよね」
「ん?そうだよ」
突然なに?
っとかずさんがパソコンから顔を上げた。
「あのね、背中って自分じゃあ塗りにくいでしよ。だから俺が塗ってあげる」
いい考えでしょ?と言うと
「えー、オレ、ベテランだから背中だって上手いもんよ。
まぁくんに塗ってもらわなくたって……えっ
…………背中?」
かずさんが返事の途中で言い淀む。
だんだん顔が赤くなってきて、そこで初めて自分が何を言ったか気が付いた。
「あー!あのっ、へ、変な意味で言ってるんじゃあないよ。
ただ、背中は塗りにくいだろうなと思っただけで……そのっ……かずさんにしてあげられる事はないかなと……思ったんだけど…………」
かずさんのその反応がなければ俺は全く気が付かなかったのに……
裸のかずさんの背中を動き回る、自分の
手のひらの映像を必死で打ち消しながら
言い訳を連ねる自分の声がだんだん小さくなっていく。
本当に下心なんかなかったんだ。
純粋に善意だったの。
だけど、考えてみれば俺は何て事を言ったんだろう。まるでかずさんの素肌に触りたいって言ってるみたいじゃあないか。
恥ずかしくて俯いてしまった俺に、かずさんは
「………手袋して貰わなきゃあ……だけど
…………それでもいい?」
恥ずかしそうに、だけど俺の反応を伺うようにそう言った。
「うん、分かってる」
かずさんが俺の気持ちを尊重しようとしてくれてるのが嬉しかった。
「じゃあ、今日から背中は俺が塗ってあげるね」
かずさんを安心させるように笑って言った。
俺はかずさんの役に立ちたいだけ、
ホントのホントに下心なんかないんだよ……
つづく