「オレね、ずっと可愛そうな子だったの」
かずさんは何かを思い出しているのか、遠くを見るような眼差しで無機質な白い壁を見つめていた。
「……まぁね、生きてるだけでいろいろ制約多いし、ちょっとしたことですぐ倒れるし、健康な人からしたらそうなっちゃうのかもしないけど」
自嘲気味に笑った後、立ってないで座ってよと病室の隅に立て掛けられていた椅子を指差した。
俺はそれをかずさんのすぐそばまで持ってきて座った。
かずさんはちょっと近すぎない?と眉を寄せた後、どこまで話したっけなぁとやっぱり真っ白な天井を見上げて
「あぁそうだ、
回りじゅうからあれもこれも出来なくて可愛そうとか言われてもさ、オレからしたら物心ついたときからそうなんだから、それが当たり前なの。
だから同情の目で見られるのがイヤで、随分
反発もしたんだけどね。
実際、独りじゃあ日常生活もまともに出来ない訳だから、しかたがないのかなぁ
なんてね、最近じゃあ諦めちゃってるところもあったの。
だけどさ、あの日玄関の前で動けなくなってるまぁくんを見つけてさ」
ほんの少し首をかしげて俺のほうを向いたかずさんが俺に向かって優しく微笑んだ。
大好きなかずさんの笑顔に俺の胸がキュッと鳴く。
「まぁくんの目がね、助けてって言ってるみたいでさ、オレ嬉しくってさ、だってこんなオレを頼ってくれたのはまぁくんが初めてだったから。
その後もオレなんかのアドバイスを守ってくれたりして、それが上手くいくとオレも人の役に立てるんだって……」
少しの沈黙……
「だけど、本当のオレを知ったらまぁくんも他の人達と同じようにオレのこと可愛そうだって言うのかな、と思ったら……言えなかった」
ふふっと声を出したかずさんがまた、諦めたと言っていた時と同じ遠い目になった。
「………やっぱり、初めに言っておけば良かったね。
そうすればまぁくんを傷付けることもなかったのに。
ホントにゴメンね」
もうかずさんは俺の顔を見てはくれなかった。
かずさんの言いたいことは?
もし、出会ったときからかずさんの病気を知っていたら、俺がかずさんを好きになることはなかったってこと?
感情を見せないかずさんの、
ただただ綺麗な横顔をじっと見つめて自問
する。
そうだろうか?
もし、初めからかずさんの病気のことを知っていたら、俺は………
くふふっ
思わず声が漏れた。
「かずさん間違ってるよ」
かずさんにこっちを向いて欲しくて、寝間着の袖をそっと引っ張った。
本当は手を握りたかったけれど、それは出来ないから替わりの袖。
「俺はね、ただ楽しい恋愛がしたくてかずさんを好きになった訳じゃあないよ。」
頑なに俺を見ようとしないかずさんの袖をもう少し強く引いた。
「俺、こう見えて楽しいだけの恋愛は結構経験してるんだよね。
だけどね、かずさんへの想いはあんな上っ面の気持ちとは全然違うんだよ」
きっとずっと我慢してきた、いろいろなものを諦めてきた。
その年月の間に凝り固まってしまったかずさんの心に届くようにと願いながら、俺は言葉を繋いだ。
つづく