不思議だね。


自分でも自覚したばかりなのに
もう、この気持ちをあなたに伝えたくてしかたがないんだ。


ついこの間まで他人なんて信じられないと思っていたのに。


裏切られるのが、傷つくのが怖くて自分の殻に籠って身動きひとつ出来なかったのに。


あなたが俺に心を開いてくれていないのも分かっているのに。


それでも、あなたに伝えたいと思ってしまう。


俺はどうしようもないエゴイストだ。


だけど、聞いて欲しい。


聞いてくれるだけでいい。


あなたのおかげで、俺の世界は変わったよ。


あなたのおかげで、また他人を信じようと思えるようになったよ。


あなたのおかげで、俺、人を好きになることが出来たよ。


だから


ありがとう、って伝えたいんだ。








その日の夕食が終わって、かずさんと向い合わせの席でノンカフェインのお茶を飲みながら、
俺はやっぱり緊張していたみたいで


「なんだか、いつもと違う」


かずさんが俺を覗き込むから、俺はほんの少しだけかずさんから距離をとって、居住まいを正した。


「あのね、俺、かずさんに聞いて貰いたいことがあるの」


俺は真剣に話してるつもりなんだけれど


「なによ、あらたまって。
何だか怖いなぁ」


かずさんはクスクスと笑っている。


「俺ね、最近仕事が楽しくなってきたの。
患者さんとも、ナースの人たちとも上手くやれるようになって」


俺が真面目に話してるのが分かって優しく微笑んで


「よかったじゃない」


少し冷ましたお茶を口許に運ぶ。
そんな仕草もとっても綺麗だと思いながら俺は続けた。


「それってね、かずさんが言ってくれた言葉がきっかけなんだよ。
笑って話してって言ってくれたでしょ?
俺が笑えるようになったのもかずさんのおかげだし。
かずさんが俺の全部を受け入れてくれたから。
外で何があっても、かずさんが居てくれると思ったから勇気を持つことが出来たんだよ」


かずさんはお茶を飲みながら、黙って俺の話を聞いてくれている。


「かずさんにはすごく感謝しています。
ありがとう」


俺が頭を下げると、少しだけ目を細めて、どういたしましてとかずさんも頭を下げた。


「それでね、仕事も楽しくなったけど、俺かずさんとのこの生活も凄く楽しいの。
俺が作ったご飯をかずさんがおいしいって言ってくれると嬉しいし、仕事でどんなに疲れてても、この家に帰って来てかずさんの顔を見ると元気が出るんだ」


俺の話がかずさんとのことになったら


「いきなりどうしたの?」


持っていたカップを置いて俺を見返すかずさんの顔には戸惑いの色が浮かんでいる。


そうだよね、突然こんなこと言われたら驚くよね。


だけど、人はいつどうなるか分からない。
また今日と同じ明日が来るとは限らない。


俺はそれを知っているから、言いたいことは
今日、今、伝えたいんだ。


「これは俺の勝手な想いだから、受け入れて欲しいって訳じゃあないんだよ。
ただ自分がこんな気持ちになれたことが嬉しいから、そんな気持ちにさせてくれたかずさんにお礼が言いたいだけなんだ」


俺の言いたいことが分かったのかな。
かずさんの瞳がゆらゆらと揺れている。


「かずさん、俺ね、かずさんが好きです。
かずさん、ありがとう。
かずさんのおかげで、俺の見る世界は今キラキラ輝いているよ。」


かずさんの揺れる瞳を真っ直ぐ見つめて言った。


俺の告白を最後まで聞いてくれたかずさんの瞳がそっと伏せられた。


その顔は何故か悲しげに歪んでいた。


眉間にシワを寄せたまま、その視線は俺の顔とテーブルを行き来して、最後にテーブルを捉えたまま、かずさんが小さく息を吐いた。












つづく