この家は確かに変わっていた。
雪深い北国で真冬にシャツ1枚で過ごせる快適さ。
温度や湿度は完璧に調節されていて、各部屋に置かれた空気清浄機はフル稼働している。
かずさんは着るものや食べるものにかなり拘りがあるようで、決まりごとが多かった。
だけど、春までお世話になるんだから、それを守ることはちっとも苦にはならない。
俺が潤君に申し出たその日に
「じゃあこれから相葉さん家に行ってみようか」
と潤君が言ってくれた。
春まで住めないというばあちゃん家に、どうしても手元に置いておきたい物があったので、潤君に連れて行ってもらった。
家に行ってみると、屋根が落ちたのはほんの一部だったけれど、やっぱり今住むのは無理だった。
俺は必要最低限の物だけ家から持ち出して、かずさんの家に帰った。
俺の寝ていたベッドのサイドテーブルの上に父さんと母さんとばあちゃんの位牌を置いて、持ってきた着替えをタンスにしまう。
そして、かずさんの家のゲストルームは春まで俺の部屋になった。
次の日からかずさんに聞きながら、リハビリも兼ねて家事に精を出した。
かずさんから一つ一つその拘りを教えてもらう。
朝は朝食を作って洗濯をする。
食事は出来るだけ自然のものを使って。添加物を抑える。熱いものと辛いもの以外は大丈夫。
洗濯は乾燥機でしっかり乾かす。
干さないの?と聞くと、外に干したのはちゃんと乾いたか確認出来ないから嫌だと言う。
家の掃除をする時も窓は開けないと言うから、それじゃあ換気が出来なくて衛生的じゃあないと言うと
「空気清浄機があるでしょ」
だって。
俺だって始めたばかりとはいえ、看護助手の仕事をしている。衛生に関する知識は少しはある。
絶対に換気は必要だって言ったら、掃除が終わって部屋の温度が元に戻るまで、仕事部屋に籠って出てこかなった。
思いの外頑固者だ。
外に出るとキレイに除雪された庭。
その奥には車庫があって、あの日俺が乗り捨てた車がかずさんの車の隣に並んでいる。
俺の車は潤君家の畑にはまりこんだらしく、潤君がここまで運んでくれていた。
庭の前の道路もキレイに除雪されていて、車での移動に問題はなかった。
それなのに、何であの日俺が遭難しかけたのかというと
前後不覚になった俺は、畑にはまった車を降りて、わざわざ冬の間は放置されて雪に埋まっている畑の中を歩いて来たからだった。
道路に出ればこんな事にはならなかったのに。
改めて自分の間抜けさに呆れた。
つづく