「かずー、病人のようすどぉー?」


扉を勢い良く開けた人は、大きな声でそういいながらバサバサと頭や肩に付いた雪を払った。


彫刻のような彫りの深い顔立ち、緩くウェーブのかかった漆黒の髪がその人が動く度に揺れる。


俺よりだいぶ若そうなその人の上着の鮮やかな赤が白いこの世界に彩りを連れてきて、俺はやっとこれが現実だと思うことが出来た。


「ああ、気が付いたね相葉さん。
あなた二日も意識がなかったんだよ」


ニコニコと話しかけるその人は若く生命力に溢れていて、俺には眩しいほどだった。


「…なんで…俺の名前?」


知らない人に名前を呼ばれてちょっと慌てる。


「ああ、これ」


と見せられたのは、枕元のサイドテーブルに置かれた免許証。


その他にもそこには俺が車を降りる時に持って出た、財布や携帯がていねいに並べられていた。


「あなた、結構危なかったんだよ。
手も足も凍傷寸前だし、低体温で衰弱してたから、かずが助けてなかったらきっと逝っちゃってたからね」


物騒なことを言っている割りに、青年はニコニコと楽しそうで、その大きな声が俺の頭にズキズキと響いていることには全く気付いてないようだった。


「……じゃあ、雪女さんが…かずさん?」


「雪女さんってなに?
こいつは二宮和也、で、かずね。
俺はこいつの従兄弟でここん家の隣に住んでる松本潤。潤って呼んで」


「お前ね、年上に向かってこいつとは何よ」


かずと呼ばれた人が潤という人に形ばかりの文句を言う。


だけど、言われた方はいいじゃんとカラカラと笑っている。


もっとも文句を言っているほうもクスクス笑っているんだからきっと本気じゃあないんだろう。


「あっ、それでさぁ、悪いと思ったんだけど相葉さんの身元を知るために、中身ちょっと調べさせてもらっの。
そしたらこれが出てきて」


見せられたのは大野病院のIDカード。


ばあちゃんが最期を迎えたそこで、俺は看護助手として働いていた。


生活のために。


「それで、無断欠勤とかすると後々まずいと思って連絡しといた。
相葉さんもうしばらく仕事行けないと思うし」


若いのによく気が付く子だな。


でも助かった。
生きていくなら仕事をしなきゃあならない。
働き始めたばかりの仕事を失うのはきつい。


「ありがとう。助かります」


横たわったまま頭を下げる俺に、潤君は顔の前でブンブン手をふって


「あー、全然気にしないで。
大野病院には俺ら顔がきくんだよ。
なっ、かず」


と同意を求めると


「ふふ、まぁな」


かずと呼ばれた人が柔らかく笑った。







つづく