side N
翔ちゃんがいなくなると知って、ショックだった。
と同時に翔ちゃんの存在そのものがオレにとって拠り所になってたんだって知った。
翔ちゃんがいてくれればそれで良かった。
だって、二人のキスシーンには自分でも驚くほど動揺しなかったから。
キスシーンに胸が痛まないなんて、どうなの?
そりゃあ、存在自体が拠り所って、それも相当なもんだと思うよ。
ある意味愛情だよね。
だけど、恋じゃないでしょ。
最初は確かに恋から始まったんだよ。
いつからそんな執着じみたものに変わったのか自分でも分からない。
だけど、どっぷり翔ちゃんに依存してたオレはいきなり手を離されて自立出来るはずもなくて。
今立っている地面が足元から崩れていくような不安、そんな自分が情けなくてどうしたらいいか分からなくて
オレは泣いた。
バカみたいに大声で泣いた。
そんな時、繋いできた手が暖ったかかったから、離したくなくて
離さないでいたら付いてきたから、その胸を借りた。
コイツの胸はやっぱり暖ったかくて、凄く辛くて悲しいのに何でか安心して
安心したら涙が止まらなくなってた。
泣いて泣いて泣き止む頃には、今まで気付かないふりをして目を背けてた気持ちを認めるしかなくなってた。
オマエが好きだよ。
翔ちゃんへの憧れから始まった好きとは違う好き。
オマエの良いところも山程知ってるけど、オマエのダメなところもいくらでも挙げられる。
だけど、そんなところも愛しいと思える。
オマエの全部がまるっと好き。
そんなことを……今さら認めたって………
どうする?……
オマエは俺が翔ちゃんをずっと好きだったのを知ってる。
オレが翔ちゃんへの想いを手放す場面に一緒にいたんだ。
まして、オレが失恋で傷ついてると思ってるオマエに何が言える。
あっちがダメならこっち?
オマエにだけはそんな風に思われたくない。
だから動けない。
だけど、オレの心はもう真っ直ぐにオマエを求めてる。
オマエの声が聞きたいし、顔が見たいし、一緒にいたい。
だから、用もないのにオマエのバイト先に行くし、ゲームを教えるなんて見え透いた言い訳でオマエん家に押し掛ける。
わざとだけど、さりげなくオマエに触れる。
そんでオマエの俺への好きを確認して心の中で喜んでるんだ。
だけど、オレからは動いてやらない。
ひねくれてるんだよ。
素直になんてなれねーの。
それがオレなの、しょうがねーじゃん。
だけど、そんなオレを潤くんは見透かしてた。許してくれなかった。
オレの心の内をあっさり暴かれて、屋上の柵にすがった状況と同じ、オレは崖っぷちに追い詰められた。
逃げ出したオレを最後の最後に追い詰めたのはオマエ。
もう降参するしかなかった。
自分で自分をがんじがらめにしてた、鎧も仮面も全部剥がして裸の心を晒した。
恥ずかしくって、おっかなくって、いたたまれなかったけど、だからこそ手に入ったオマエ。
まるで壊れ物を扱うようにふんわりと包み込まれる。
こう見えてオレだって男だ、ちょっとやそっとじゃ壊れやしない。
気付けよって意味も込めて、反対にオレはぎゅっと力を込めて抱き締めてやった。
オマエの筋肉質で固くて暖ったかい胸におでこを擦り付けて、身体全部を預ける。
背中に感じる、オマエがボタボタ落とす涙の冷たさ。
これ、鼻水も混じってんじゃねぇ?
なんて思いながら、オレの心は幸せってやつで満たされてたんだ。
つづく