コン!コン!という音におーちゃんが顔を上げ、何事もなかったようにふにゃりと笑った。
「おう、ニノ、相葉ちゃん」
翔ちゃんも見られているのは分かっているはずなのに、慌てるでもなく照れるでもなく、いつもと変わらない顔をこっちにむける。
おーちゃんも翔ちゃんも、その余裕が今は腹立たしいよ。
「ごめんね、ちょっと聞きたい事あって。
今いい?」
無粋なのは百も承知。
俺は冷静に冷静にと自分に言い聞かせた。
「下で聞いたんだけど、翔ちゃんとおーちゃんがアメリカに行くって」
緊張で顔が強ばる。
だけど、出来るだけニノを刺激しないで正確な情報を聞き出そうと言葉を選ぶ。
「ああ、そうだよ、情報早いな雅紀。
まだ、決まったばかりなんだよ」
やっぱり何でもないことのように言う翔ちゃん。
俺は思わずニノの手を握った。
「智くんがニューヨークの画廊と契約することになってさ。
今後はそこを拠点に活動することになって、二人で向こうの大学に留学することにした。
今は、日本の大学の単位とアメリカの大学の単位をたして評価されるようになったから卒業は向こうの大学でする」
翔ちゃんの説明の間中、握ったニノの手が震えているのが俺の手に伝わってきてた。
「………じゃあ、日本には?」
ニノが消え入るような声で絞り出すように翔ちゃんに聞く。
「んー、まったく帰って来ない訳じゃないけど、向こうの生活に慣れるまで、暫くは帰って来れないかな」
「それにな、相葉ちゃん。
アメリカなら男同士でも結婚出来るんだよ」
それまでふにゃっと笑って話を聞いていたおーちゃんがどや顔で俺たちを見る。
「えっ?智くん?」
「んふふっ、いずれな。
ちゃんと自分たちの力で生活出来るようになったらな?」
「………もう、聞いてないよ俺」
もんくを言いながら、嬉しそうな翔ちゃん。
二人で見つめあって、幸せオーラを振り撒くのはいいけど、
今はやめて。
ニノが俺の手を強く握り締める。
痛いくらいに。
これ以上ニノに聞かせたくない。
ニノを見ると感情を圧し殺したような無表情。
この部屋に入ったときからずっと。
どれ程辛いだろう。
もう聞かなくていい。
「ニノ、帰ろ「そうか、おめでとう。翔ちゃん、大野さん。出発の日は教えてよね、見送りに行くから」
俺の言葉を遮って、ニノがにっこりと笑った。
呆気に取られていると
「行こうか相葉さん。じゃあね、また明日」
それだけ言うときびすを返して部屋を出た。
手を握られたままの俺もニノに引きずられるように部屋を後にする。
途中振り返って、平然と手を振る二人をキッと睨み付けた。
"おめでとう"の言葉にどれだけの気持ちが隠れているか、二人は知っているくせに。
もうちょっとニノを傷つけない伝え方は出来ないの?
ニノの気持ちに答えられないとしても、あんなに可愛がっていた後輩じゃないか。
そのニノに対する酷すぎる仕打ちに、俺は腹が立って仕方がなかった。
二人に言ってやりたいことは山程あったけど、ニノは俺の手を離すことなくずんずん廊下を進み、階段を登る。
重い鉄の扉を開けて屋上に出た。
俺たちの後ろで開けた扉がバタンと閉まった。
その音を待っていたように、ニノの瞳からポタポタと涙が零れ落ちた。
「……翔ちゃんが、うっ……翔ちゃんが……ふっく……」
うわ言のように言いながら、膝から崩れ落ちる。
ペタリと座り込んだその身体を、俺はそっと抱きしめた。
「…うっ……ううっ…うあーー……
……翔ちゃんが………っく……行っちゃう…ぁあー」
途端に堰を切ったように泣き出したニノ。
「……ぅあーー……ん……んっうっうわーーん」
「ニノ……ニノ……」
両手で俺の服を握り締め、俺の胸に顔を押し付けて、まるで小さな子供のように大声をあげて泣きじゃくるニノ。
そんなニノを、俺はずっと抱き締めていた。
つづく