二人で教室に戻ったら、松潤が笑って迎えてくれた。


これで三人揃って元通り………


にはきっとならないんだろう。


松潤の気持ち、その優しさや心遣いへの感謝。
改めて見つめたニノへの気持ち。
そんなものを全部胸の中に納めて今までと変わらずに笑い会う。


今、この時がたまらなく貴重でかけがえのない瞬間なんだ。
ニノ、松潤一緒にいてくれてありがとう。


俺は心の中でそっと二人にお礼を言った。







数日後、
授業が終わって、会議室でいつものように雑用をしていると翔ちゃんに呼ばれた。


「雅紀、スーツって手元にある?」


いきなりなんだろうと思いつつ


「実家には送ってないから、部屋にはあるけど…」


「じゃあ、明日持ってきて。
明日から俺と一緒に外回りな。」


有無を言わせない口調と満面の笑み。


外回りって?


今度は翔ちゃんの補佐ってこと?


それって何するんだろう?


翔ちゃんの補佐なんて俺に出来るの?


?マークばかりが浮かぶ俺をニヤニヤしながら見てるニノ。


「ねぇ、俺何するの?」


この不安を解消したくて聞いてるのに


「ふふふ、何でも全力でやるんだろ?
せいぜい翔ちゃんに鍛えて貰いなさいよ」


こいつの前で滅多なことを言うもんじゃない。


すっかり揚げ足をとられて、面白がられてる。


腕で口許をかくして笑ってる、俺と翔ちゃんを見比べるその顔。


スッゴい悪い顔してるからね!





翌日、一張羅のスーツを着て乗せられた翔ちゃんの車。


いつも大人でカッコいいけど、ハンドルを握る翔ちゃんはいつもより更に大人っぽく見える。


「そういえば、ニノと雅紀何かあった?」


翔ちゃんも気付いてたんだ


「ちょっとね。
俺の空回りだから、もう大丈夫」


「そっか。
ニノさ雅紀と会ってから変わったなって。
前より楽しそうだから。

ずっと身動き出来なくて辛そうだったけど、少しは前に進めてるのかな?
何にしてもいい傾向だよ」


ニノを心配するその顔は、優しいお兄ちゃんの顔。


「翔ちゃん、ニノの気持ち………」


「んー?
俺は何も知らないよ。
本人が言わないことは、知らなくてもいいってことだからね」


やっぱり気付いてる。
だけど、気付かないふりをして見守ってる。
それが翔ちゃんの優しさなんだね。



車は颯爽とビルの間を縫って進んでいく。


あんまり大きくはないけど、大学生には不釣り合いな高級車が翔ちゃんにはよく似合っている。


「翔ちゃん、車の免許持ってたんだね」


話題を変えるつもりで聞いたんだけど、いきなり翔ちゃんの顔がデレた。


「智くんの絵を運んだり、智くん運んだり便利だからな。
去年の夏休みに取った」


大野さんのことを話す翔ちゃんはホントに嬉しそうで、さっきまでの頼れる兄貴とは別人のよう。


「そういえば、最近大野さん見ないね」


「釣りに行ってる。
ちょっと遠出してるから、一週間は帰って来ないかな」


まだ夏休みにもなってないのに、一週間も釣りに行っちゃったの?


「寂しくないの?」


「うーん、寂しくないことは無いな」


翔ちゃんの頬がほんの少し赤くなってる。


「だけど、二人にはしっかりとした絆があるもんね。
大野さんなんて、すっかり翔ちゃんを頼ってる感じだし」


二人が一緒にいる所を思い出すと、ポヤンとしてる大野さんを何暮れとなくお世話する翔ちゃんが浮かぶ。
大野さんって一人じゃ日常生活送れなさそうなイメージ。


俺だけじゃなくて、多分皆が思ってる。


「ふふ、そう見える?

実は追っかけてるのは俺の方。
もう付いていくのに必死。
あの人は一人でも全然平気だし、自分で何でも出来るし、ちょっと目を離すと今回みたいにふらっと出掛けていっちゃうし。

しかも、釣りに行くときは付いて来ないでくれって言われてる。
どうしても、一人の時間が必要なんだって」


やっぱり、ちょっと寂しそうだけど


「それも全部含めて、智くんっていう人だからね。
もう、丸ごと受け入れるしかないでしょ。

惚れた弱みってやつ?」


恥ずかしいこと言わせんなよー


翔ちゃんはガハハッと豪快に笑った。









つづく