敦|tong -ぼくが初めて書いた「物語小説」- |   EMA THE FROG

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純文学というのは、どこか物語性を「拒否」しているような面があって、
エンターテイメント性を自ら封じたような、
とにかく<何も起こらないまま話が進む>作品が目立ちます。

これは、<何も起こらないこと>自体に魅力を感じているからというより、
<都合よくいろいろな事件が起こること>に対する気恥ずかしさ、
場合によっては軽蔑、といったもののせいで、
とかく純文学作家はその作品から「出来事」を排除しようとし、
結果的に<何も起こらないまま話が進む>作品になっているわけです。

少なくとも、僕が「UTERO」や「メルヘンディスポーザー」などを
書いていた時は、そうでした。

今回パブー上にアップした「敦|tong」という作品は、
そういう意味で少し毛色の違う作品です。

これは僕がはじめて、意識的に「物語」を書こうとした作品で、
とかく「文学に逃げがち」だった自分を戒め、
「出来事」で読者を楽しませることを大切にして書きました。

世界観としては、大友克洋の『AKIRA』、
村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』『歌うクジラ』『五分後の世界』あたり、
構成としては群像劇なので、映画『シリアナ』『バベル』と似ているかもしれません。

以下、作品本文の中から、いくつかの部分を引用します。
秋の夜長に、ぜひご覧頂ければと思います。



★作品閲覧はこちらから★




※以下本文より引用

「警備班の訓練生として寮に入って半年ほど経った頃、何の前触れもなしに人間を解体する訓練を受けさせられた事があった。組織同士の抗争で殺された中国人マフィアの死体が偶然手に入ったのだと当時教官であったイバチは自慢げに話していた。およそ30人いたその年の訓練生達はまだ乾いていない血液が首筋に流れている死体を間近に見て、その半分以上が部屋から飛び出していった。教官達によって無理矢理部屋に連れ戻された訓練生達の見つめる中、タケルは教官のアドバイスに従い死体にメスをいれ、顔の皮を剥ぎ、電動ノコギリで四肢を切断し肉と骨の間に器具を差し込んで引き剥がした。それを黙ったまま見ていた訓練生達の感情が、おぞましい行為を淡々とこなしているタケルにある印象を貼り付けてしまったのかもしれない。あれ以来、他人から普通の視線を投げられた事はなかった。恐れか、不快感か、興味か、いずれにしても自分を見つめる人間の目には何かの感情が込められている。しかしその事に対してタケル自身がネガティブになる事はない。誰が何を考えていようが、タケルには他人と感情を共有する意志がはじめから存在していないからだ」(タケル/『タコの刺青とブイヨン』)

「男はベッドの上で四つんばいになっているルゥの髪を背中越しに撫で、暖房で暖められた生温い空気の中で僅かに動いている肛門に舌先を押し付けた。男の舌は冷たくて硬く尖っている。それはガラスのカケラとか鏡に反射した蛍光灯の光とか手術室のメスとか水溜りに差し込んだ夏の太陽とかそういうものを連想させ、形を持ったイメージとして体中の神経の上をサラサラと滑っていく。冷たいものは好きだ、とルゥは思った。こんなにもあったかい部屋にずっといたらきっとそのうち輪郭がトロトロ溶け出して、あたしもこの男も壁に埋め込まれたモニターも窓の表面に浮かんだ水滴も艶々したシルクのシーツも全部が全部アメーバみたいにグネグネとくっついていって、そしてやがて一つの大きな生き物になってしまうんだわ。そうなってしまったらきっとつまらないだろうなぁ、とルゥは思う。全部が自分になって、それなのに自分は何かの一部で、あたしは曖昧になってしまった輪郭をもう一度硬くしようと体を冷やすだろう」(ルゥ/『肛門のない牛』)

「アジトの中に入ると、他の新入りたちがデイビッド達の姿に気付いて玄関の脇に2列で並び、深々と頭を下げた。人数は多いが彼らの格好が貧相で汚いのでどうしても絵にならない。デイビッドは苦笑いしながらその間を通り過ぎ、新人からトランクを受け取りドレッドに手渡した。ドレッドが瞬間的に緊張したのが分かった。頬の筋肉が硬直し僅かに瞳が濡れている。ドレッドは大きく深呼吸して、ニオのボスであるウェスの部屋に行くため、エレベーターの方に向かって歩いていった。ドレッドが向うのはデイビッドを含めたほとんどのメンバーが入ることすら許されない、いわゆる幹部達が顔を揃えるこのビルの最上階だ」(デイビッド/『紫色のシミ』)

「ミチコはその少年に性的な意味での愛情を感じていた。初めて少年と二人で風呂に入った時、そのまっ白な頬に思わず舌を這わせた。その風呂はとても広く、小ぶりな銭湯ほどもあって壁には巨大な窓がはめこまれていた。少年は無表情のままだったが、一瞬誰かに助けを求めるように窓のほうを向いた。誰も居ない事を確認するとすぐにミチコに向き直り、ミチコの唾液が残ったその美しい頬に触れてそしてゆっくりとミチコの大きな乳房に手を伸ばしてきた。ミチコはじゅんと溢れてくる愛しさに焦りながら、そしてこんな小さな子供に悪戯している自分に自虐的な興奮を感じながら、少年の頭を抱え込むようにして、自分の乳首をその小さくて冷たい唇に押し付けた」(ミチコ/『生贄フレグランス』)



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