こんにちは。
科学警察研究所の内山研究員が平成9~10年に
強姦で検挙された加害者と、18歳以上の被害者を対象に行った調査があります。
今日はその調査をいくつかご紹介した後に、実際の事件を見てみたいと思います。
■加害者がどうやって被害者を選ぶかについて
1位「相手が届け出なさそう」が45%
2位「おとなしそう」が28%
3位「一人で歩いている」22%です。
■強姦時にどのような脅迫や暴力が行われたかについて(被害者へのアンケート)
1位 「むりやりからだを押さえつけられた」 75%
2位 「さからったら殺す」「おとなしくしろ」と言葉で脅かされたが」 61%、
3位 「相手の体が大きい(相手の力が強い)ので、逆らえないと思った」 48%
実際に強姦の際に殴ったりけったりされたのは29%だけでした。
■被害時のショックについて(被害者へのアンケート)
1位 「とても怖かった」 87%
2位 「ショックだった」 73%
3位 「言うことを聞かないと殺されると思った」 70%
4位 「相手から何をされるかわからなかった」 57%
5位 「どうしていいかわからなかった」 53%
3つだけのご紹介ですが、これらから、
『加害者は自分より身体も小さく力も弱そうな、おとなしそうで、抵抗しなさそうな一人で歩いている女性を見け、「殺すぞ」などと脅し、からだを押さえつけて強姦をはたらく。
そして、被害者はとても怖くショックで、「殺される」と思って凍りつき、自分の命を精一杯守るために、相手の言うことを聞く。』
ということが見えてくると思います。
意外と暴力をふるわれる割合が低いと思われるかもしれませんが、これは実際に殴らなくても殴る以上の恐怖心を相手に与えることはできるということですし、それに実際に殴られなくても、絶対に勝てない相手に力で抵抗しようと思いませんよね。
向こうから白鳳が攻めてきたら、とるコマンドは「たたかう」じゃなくて「にげる」だと思います。
でも、向こうから短距離金メダルランナーが追ってきたら、とるコマンドは「にげる」じゃなく「説得する」に変わる思います。
それに、
相手はどんな凶器を持っているか分かりません。
周りに何人仲間がいるのか分かりません。
どんなひどい目に遭うかもわかりません。
そんな中で、被害者はその瞬間瞬間に、生き延びる為の必死の選択をしたんです。
その結果、レイプされてしまったとしても、誰がそれを「愚かだ」と言えるのでしょうか。
逃げ出す努力はしたと思います。
でも、できなかったんです。
そもそも、先の調査からも、
『逃げられないように追い詰める』
のが加害者の手口で、
『自分の言うことを聞くような被害者を選ぶ』
のもその手口のひとつです。
それなのに、「逃げようと思ったら逃げられた」のに逃げなかったから合意があったんじゃないのかという推測がよくされます。
これは、単なる事後論ですし、強者からの、一方的な暴論です。
さて、先日、最高裁で性暴力犯罪が逆転無罪になるという事態が発生しました。
ご存じだった方も、上記の事を頭にいれて読んでみてください。
■強姦罪の被告に最高裁が逆転無罪 「犯罪の証明不十分」
千葉市で2006年に女性(当時18)を強姦(ごうかん)したとして、強姦罪に問われた東京都内の配送業男性(53)の上告審で、最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)は25日、懲役4年の実刑とした一、二審判決を破棄し、無罪とする逆転判決を言い渡した。無罪判決が確定する。最高裁が「事実の誤り」を理由に無罪を言い渡すのは異例。
男性と犯行を結びつける証拠が被害者の供述しかない事件だったが、第二小法廷は「被害者の供述が信用できるかの判断は、特に慎重に行う必要がある」との考え方を示した。別の小法廷が09年4月に、電車内の痴漢事件について示した判断と同様の内容で、性犯罪の捜査や裁判に与える影響は大きいとみられる。
男性は06年12月27日午後7時過ぎ、千葉市内の歩道で女性に「ついてこないと殺すぞ」と声をかけ、近くのビルの階段踊り場で強姦したとして起訴された。男性側は「強姦ではなく、同意を得た性的行為だ」と無罪を主張していた。
第二小法廷は、女性が声をかけられた場所は人通りもあり、近くに交番があったのに、助けを求めなかった点などを不自然と指摘。「一、二審判決は経験則に照らして不合理で、犯罪の証明が不十分だ」と結論づけた。
4人の裁判官のうち、検察官出身の古田佑紀裁判官は「性犯罪は被害者が萎縮して抵抗できない場合も多く、一、二審判決は不合理とは言えない」と反対意見を述べた。 (アサヒ)
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY201107250692.html
被害者は、例外なく自分を責めます。
『なぜ逃げられなかったのか』
『もっとやり方があったのではないか』
『自分にスキがあったのではないか』
そんな無限の後悔のなか、それでも勇気を振り絞って告訴をします。
それなのに、性暴力についてまともな知識があるとも思えない裁判官から一方的に『逃げようと思ったら逃げられたはずである』と言われ、『合意だった』とされてしまう。
生涯自分を苦しめる負の記憶さえも、『なかったこと』にされ、『合意』であり、『自分が望んでいたこと』にされてしまう。
被害者にとって、これ以上辛いことはないと思います。
こんな現状を何とかしていきたいと思っています。
『性暴力禁止法をつくろうネットワーク』はこちら
http://www.stop-sexual-violence-jp.org/
関連記事『企業法務ナビ』より
■性犯罪研究の常識と最高裁の常識のギャップ!?
強姦罪に問われていた男性が最高裁において逆転無罪となった。そこには,最高裁の想定する性犯罪被害者の行動についての「常識」のあり方が見え隠れする。
裁判の経過は以下のものである。千葉市内で2006年に女性に性的暴行を加えたとして男性(53)が強姦罪に問われた。1,2審判決では有罪とされたが,最高裁においてこれを破棄,男性は無罪となった。1,2審では被害者女性の供述の中に多少不自然な部分があるものの,主張は一貫していることなどを鑑みて,その供述を信用し有罪としていた。
ところが一転して最高裁において逆転無罪となった。これは2つの点で問題があると考えられる。1つは法律審が原則であるところの最高裁が事実認定についての判断を下した点。もう1点は,その判断の背景に存在する「性犯罪被害者の女性はこのように行動するものだ」という最高裁の「常識」が性被害者研究者の常識とギャップがあることである。
■最高裁の良心!? 古田裁判官の反対意見
特に後者の問題点については,古田裁判官の反対意見に詳細に述べられている。具体的には,すぐ側を通った警備員と目が合ったにもかかわらず助けを呼ばなかったことは不自然であるというような最高裁の判断については,一見不合理に思える行動であっても性被害状況下にある者の取る行動としてはありうるものであるということが性被害研究においては「常識」となっているということを指摘し,最高裁の多数意見の判断はこの常識と大きく乖離していると述べている。
■雑感
最高裁の考える論理則,経験則といった「常識」が素朴に適用されることによって,性犯罪の現実と乖離した判断がなされたという印象がぬぐえない。もっとも,このような最高裁の傾向は従来からのものであるようで,古田裁判官の反対意見が存在することが今回の判断の「救い」と考える研究者の意見もあるようである。「逆転無罪」「刑事裁判の事実認定の手法の徹底」という点が今回は注目されているようであるが,性被害事件であるという特徴を抜きにしてこのような部分にのみ注目する報道には疑問を持たざるを得ない。