「――暑いな」


 俺は孔雀の扇子でパタパタと顔を仰ぎながら、数時間ぶりに空を見上げる。

 青のキャンパスには少しの雲もかかっておらず、目に痛いほどに太陽が輝いていた。発せられている熱が、チリチリとむき出しの肌を焼く。


 しかし、時折吹く風は心地良く、冷房のガンガン効いた宿屋とは違い、慣れ親しんだ涼しさをもたらしてくれた。



 やっぱり、こちらの方が俺には合っている。

 


 肌に張り付いた髪を後ろに流し、あてもなく歩き出した。






 ――キール、フォルテ、ダグ、ディラス。シャオパイは宿屋で店番をしているはずだ。

 となると、この時間帯に外に出歩いて、なおかつ、この暑さを吹き飛ばしてくれるほど面白いやつといえば、それくらいになるだろう。



「……いや、一人忘れていたな」

 セルフィアの住民の中で、スケジュールなんてものはもちあわせておらず、不規則に辺りを走り回る人物が。

 最も、俺が興味ひかれる対象が。



「アンタは今日も忙しそうだな」

「あ、こんにちは。レオンさん」


 緑のツインテールに声をかければ、くるりとその顔が現れる。

 ふにゃりと笑って、俺が行くよりも先にフレイは駆け寄ってきた。



「今日はこれから、作物の収穫か? それとも、買い物? もしくは、畑の水やりか?」

 そう矢継ぎ早に尋ねれば、フレイは困ったように首をかしげ、そして苦笑した。


「全部です」

「……それは、ハードスケジュールだな」

「正確には、それプラス釣りとモンスターの世話、あとは頼まれ事もありますね」


 指を折りながら予定を確認し終えると、フレイはパッと顔をあげて微笑む。

 その顔に、疲れや仕事の量に対する弱音なんてものは含まれていない。



 しかし、ただ一つ。

 前までにはなかった、フレイの笑顔を曇らせるものがあった。

 そのことに、気づいている人間は何人いることだろうか。




「……そうか。なら、これから俺を黒曜館に連れていけ」

「はい? あの、レオンさん……今の話聞いて――」

「もちろん聞いていた。だが、これも立派な頼みごとだと思うが? まさかアンタ、他のやつの頼みごとは聞けて、俺のは断るなんて言わないよな?」


 意味がわからない、と顔に浮かべたフレイの言葉を遮って、俺は思い浮かぶかぎりのこじつけを並べる。


 筋が通っている通っていないは関係ない。

 重要なことはただ一つ。相手に考える間と、反論の余地をあたえないこと。


 そうすればたいてい、フレイなら――



「――なんでまた、黒曜館なのか聞いてもいいですか?」

「夏だからな。肝試しがしたくなったんだ。でも、一人じゃ面白くないだろう?」

「二人でも面白いですか?」

「ああ、大丈夫だ。アンタがいれば、ほとんどのことは面白くなるからな」


 ニッと笑って見せれば、フレイはげんなりした表情を見せ、ふうと息をはいた。



「わかりました。その頼み事、お付き合いしますよ……」

「さすが、依頼は断らないことで有名なお姫様だな」


 くくっと喉を震わせ、俺は前を行くフレイのあとについて行った。







「――なぁアンタ。ここにフォルテを連れてきたことはあるか?」

 俺は、モンスターを一撃で片付けたフレイに声を投げ掛ける。


 すると彼女は周りにモンスターがいないことを確認してから、「はい」と返事をしながら振り返った。

 その顔には、苦笑いが浮かんでいる。


「最初に来た時、とても怖い想いをしたので、二回目の時について来てもらったんです。だけど……」


 そこから先は言葉を濁して、フレイはあいまいに微笑む。

 しかしその表情から、俺の予想は間違ってなかったことは確認できた。



「ほーう。それは俺も見たかっ……いや、俺がいられたらよかったのにな」

「レオンさん、尻尾が揺れてます」

「今度二人でくるときは、俺も誘え」

「フォルテさんを黒曜館に誘ったりしませんよっ」


 まったくもう、と頬を膨らませて、フレイは踵を返す。

 その足取りに、前を進んで行くことへの恐怖は感じられない。



「……アンタはもう、怖くないのか?」

 小さなその背に言葉をかけても、フレイは振り返らずに進んで行き、次のドアを開けようとしているところだった。


「何度も来てたら、さすがに慣れましたよ。――って、レオンさん!?」

「なんだ? 俺が先に行ったら問題でもあるのか?」


 フレイが振り返らないのをいいことに、俺は先にドアを開けて、次の部屋へ飛び込んだ。

 部屋には三匹ほどモンスターがおり、その全てに向けて魔法を放つ。

 いくつもの火の玉が発生し、一瞬のうちにモンスターたちは、はじまりの森へと還っていった。




 何か変った物はないかと、ギシギシと音をたてる板を踏みしめ進んで行くと、フレイが次の部屋からやってくるところだった。

 そして俺に向かって手をのばし――


「レオンさん、危ないっ!」


 フレイがそう叫んだのと、頭上からカラフルな物が次々に落下してきたのは同時だった。




「痛てっ……!」

 俺はとっさに頭を覆うが、それよりも先に数ある中の一つが直撃する。

 よくよく見てみれば、それはぬいぐるみで、こんな仕掛けもあったのかと少々感心した。



「だ、大丈夫ですかっ?」

 ぬいぐるみが全て落下し終わると、目の前には顔を青ざめさせたフレイがいた。

 フレイは俺の顔をじっと見つめた後、全身の力を失ったかのように床にへたり込む。


「おいおい、大丈夫か?」

 俯いてしまった頭に手を伸ばすと、それを振り払うかのようにバッと顔があげられる。

 その眼は間違いなく俺を睨んでいるが、少しも迫力はない。



「もうっ! すっごく心配したんですからねっ。本当に、心臓が口から飛び出すんじゃないかってくらい……」

「俺はそれくらいでやられたりしないぞ」

「だって、レオンさん打たれ弱いから……」

「誰が打たれ弱いだ。アンタ、さらっと失礼なこというな」


 しかも、その眼は真剣とみた。

 これは怒っていいのか笑っていいのか、反応に悩む。



 俺はため息をついて、徐々に下がって行く緑の頭をくしゃりと撫でた。


「心配しなくても、俺はこれくらい平気だ」

「……でも、この前までレベルも……」

「それはいつの話だ? アンタに付いて行ったおかげで、とうに100は超えているがな」




 ――そうだ。あの時も、フレイは俺の前で必ず戦っていた。

 その後ろ姿を、俺はなすすべなく見つめ、どんどん自分の中に力が溜まって行くのを感じていたんだ。


 残ったのは、フレイが稼いだ強さと、無力感。


 なのにあいつは、こまめに『大丈夫ですか?』と後ろを振り返り、俺がモンスターからの攻撃を一撃でもくらおうものなら、慌てふためいてキュアを使っていた。


 自分の傷には、少しも目を向けずに。


 きっとそれは、俺以外の人といっしょにいても同じだろう。



 フレイが一人で戦う姿を見て、俺は強さを求めた。

 この小さな背を守れるくらいの強さを。


 だけどフレイの守ろうとするものは、あまりに多すぎる。

 だからこそ、ここまで彼女は強くなった。


 しかし、そのことで彼女は前よりも一人で戦うようになってしまった。

 それに加えて、セルザを失ってしまったことで、より自分を責めているのだろう。





 ――ああ。なんて馬鹿なんだ。




 俺がスッと手を挙げたのと、フレイが双剣のうちの一本を投げたのは同時だった。



「……え?」

 フレイは俺の背後でモンスターがはじまりの森に還ったことを確認し、そして慌てて自分の背後を振り返る。

 そこには、俺が発生させた火の玉が微かに残っており、もう一匹のモンスターの姿はすでに消えていた。



「馬鹿だな、アンタは。自分がやられたらどうするんだ?」

 そう問えば、フレイは言葉に詰まり、だけどキッチリ、ゲートは壊した。


「……っレ、レオンさんだって! 私の後ろにいたモンスターを攻撃したじゃないですかっ!」

「気づいていたさ。でも、アンタが俺の後ろにいたモンスターは倒してくれるって信じてたからな」



 立ち上がり、俺はゲートを壊したまま動かないフレイに近づく。

 しゅんとしてしまった緑の頭にポンッと手を置き、言葉を紡ぐ。


「なぁフレイ」

 名前で呼べば、驚いたように顔が持ち上げられる。

 


「アンタは一人で戦わなくていいんだ。そのための仲間もいるし、皆、アンタが思っている以上に強い」

「…………だけど、私……これ以上、誰かが傷つくのも、いなくなるのも嫌なんですっ」


 ぐっと持ち上がった瞳には、揺るぎのない意思が見て取れた。

 


『自分が皆を守らなきゃ』

 フレイの瞳はそう告げている。



 俺はもう一度深くため息をつき、その緑の頭めがけ、手首にスナップをかけて下ろす。


「痛いっ! なにするんですかっ!?」

 フレイは頭を押さえてうずくまる。

 しかし、馬鹿にはこれくらいしないと俺の気がおさまらなかった。



「アンタはそこまでわかってて、何で一人で戦おうとするんだ?」

「だからっ、それはもう誰かがいなく――」

「そんなこと、皆思ってるさ。……その中に、アンタが含まれてることも忘れるな」


 少し強い口調で言えばフレイは肩をビクッと震わせる。

 そして小さく「あ……」と声をもらす。




「セルザがいなくなったのも、アーサーやダグが傷ついたのも、アンタのせいじゃない。アンタが責任を感じることも、皆を守って戦う必要だってないんだ」


 フレイはギュッとかたく拳を握りしめている。

 その顔に、どんな表情が浮かんでいるのか俺にはわからない。



 だけど――


「それは……嫌です。私は姫だとかそんなこと関係なく、皆を守って戦いたいっ! セルザにっ……帰ってきて欲しいのっ」


 真っ直ぐに俺を見つめ返した瞳には、間違うことなき意思が宿っている。

 それが、フレイの答え。



 そして俺も、彼女ならそう言うことを分かっていた。

 唇の端をつりあげ、俺は耐えきれずに笑う。



 ――やっぱり、このお姫様は面白い。




 だからこそ、こんなにも人をひきつけ、たくさんの人がその後をついていくのだろう。


 もちろん、俺でさえ。




「――アンタの返事はわかった。けど、さっき言ったことは覚えているな? 俺たちだって、一緒に戦う。わかったな?」

 そう念をおせば、お姫様はしぶしぶといった様子で頷いた。




「……レオンさんにはかないませんね」

「そうか? 俺はアンタには勝てないと思っているがな」







――END――








終わってしまえっ!



…あ、皆さんこんにちは!

うだるような暑さに、もういっそ溶けてしまいたいエルゼです←


……今ならアイスクリームの気持ちがよく分かります。



とまぁ、私の戯言は置いといて、久しぶりの更新がSSだったので、驚かれた方もいたんではないかなぁーと。


はい、実に久しぶりのルンファ4ですね(^▽^;)

最近ルンファ4やってないんで、キャラがブッレブレ……。

スミマセンっ(スライディング土下座)


駄文はまぁ……相変わらず←

成長している気が全然しませんねっ(もう、投げやり


実はこのネタ、思いついたのがかなり前だったということもあり、私自身かなりうろ覚えの中で書いていたり……。

いや、メモってあったからこうして書いたんですが、かなり大雑把なもんで。


そして久しぶりのルンファ4の二次小説ってことで、書くのにも時間かかっちゃいました……。

時間軸的には二部終了、三部が始まっていないくらいです。



まさに、私もそれくらいでプレイが止まってたりするんですが……。

なんか小説書いてたら、また始めたくなりました!

今日の夜にでも、してみようかなーと思ったり。





それでは、see you!