※『記念日』 | 手品人えりゅうの『まさにアメイジング!』

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『記念日』


 「今日は特別な日だったわよね。」
靴べらを手に取り靴を履いて振り返ると、私のかばんを持った妻がつぶやいた。

 三日前、私は妻に今日は接待で遅くなると嘘をついてある場所に向かっていた。それは目の前でマジックを見せてくれるマジックバーといわれるところだ。聞けば誕生日や記念日をプロデュースしてくれるというではないか。私は六月二十三日に妻と結婚してから十年を迎えるのだ。今まで何もしてこなかったわけではない。確かに特別ではなかったが、それなりに花を送り、食事などもしてきた。ただ十年目ともなると・・・。

 「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました。」
案内されるまま席に着いた。一目見た印象は、若い、である。すらっとした顔立ちに、黒いシャツを着た目の前の男はバーテンダーというより、やはりマジシャンに近い。
「お飲み物は何になさいますか?」
なんともゆったりとして優しい声である。
「ビールをお願いします。」
「どうぞ。ところでお客様は初めての方ですね。」
「そうです。どんなマジックをされるか見せていただきたくて。」
「なるほど下見ですね。お祝いか何かですか?」
心を見透かされたようで少し驚いた。それともこれもマジックなのか。いやいや、ただのあてずっぽうだ。
「そうなんですよ。三日後、結婚記念日にマジックでサプライズをしてはいただけないかと思いまして。」
自分で言っておいてなんだが、急なことだ。マジシャンにも準備は必要だろう。しかし、マジシャンは意外な言葉を投げかけてきた。
「十年目ですね?喜んでやらせていただきます。」
「なんでわかったんですか?十年なんてひとことも・・・」
「カンです。」
そういって彼は優しい笑みを浮かべた。なんともつかみどころのない人だろう。本当にカンなのかそれともマジックなのか。悩んでいるうちに照明が暗くなり音楽が変わりマジックが始まった。目の前というからカードやコインだけかと思ったがリングやシルク、袋なども使ったりと、いつしかマジックの魅力に吸い込まれていった。

 あっという間の三十分だった。まるで夢のなかにいるような。しかし、これでは記念日にただマジックを見ただけになってしまわないだろうか。
「当日も基本的には同じ事をさせていただきますね。」
そういう彼を見て目をまるくしたが、それ察したのか彼はこう続けた。
「心配なさらないでください。内容は同じでも全く違ったものになりますから。」
ますます困惑してきた。今見たものをまた見せられるのに、違うものになりえるはずがない。本当に大丈夫なんだろうか。不安が残る中その店を後にした。

 その日の朝、私は妻からかばんを受け取り、
「今日は食事をした後に、もう一軒予約してあるんだ。仕事が終わったら、電話するから土下座前に待ち合わせしよう。」
「珍しいわね。二件目なんて。」
妻は首を少しかしげているが、廊下をリビングへ向かう足取りは少しばかり弾んでいるに見えた。

 私が土下座前に到着した時に妻はもうそこにいた。少し遅れた私は、「ごめん。」というと妻は「いいのよ。」と顔を上げた。私は、はっとした。いつもより気合が入っている化粧と服装にみとれてしまったのだ。口をついて綺麗だよ、と出そうになったが必死に飲み込んだ。
「じゃぁ、いこうか。」というと妻は「ねぇ、何か言いたかったんじゃないの?」とにやけた。どいつもこいつも人の心を見透かしたように物を言う。私は聞こえていないふりをした。

 食事の間や移動中も妻は二件目のことが気になっているのか、どこへ行くのか何度もたずねてきた。その疑問もドアの前に立ったときは消えていたのだろう。変わりにそこにあったのは眼を輝やかせた妻の顔だった。以前聴いたことがある。デパートで迷子になったときマジックの売り場に何時間もいたのだという。母が迎えに来てもまだその場所を離れようとしなかったそうだ。そのときのマジシャンの優しさとマジックが今でも忘れられないのだとか。本当にあのマジシャンは大丈夫だろうか。心配しながらも、扉に手を掛けた。

 「いらっしゃいませ。高橋様ようこそいらっしゃいました。」
リザーブと書かれた札が用意されていた。こじんまりとした店構えの割には、ちゃんとしているんだなと少しに口角が上がった。ドリンクが目の前に来て照明が暗くなり音楽が変わる。心配な私は奥歯をかみ締め心なしか緊張していた。妻はそんな様子の私には一切気づいていないだろう。彼が空中から取り出したのは光の玉。なんだ、やっぱり前と同じじゃないかとがっかりして見ていた。その後、彼が語りだした。
「お二人は結婚前にディズニーランドに行かれたことがありますね。まだお二人とも初々しく手を取り合うのもドキドキしていた。夕暮れになるにつれて帰る時間を気にするようになる。最後行われた夢と希望と光のパレードを見て、終わったときに幸せな気分に浸った。その余韻が終わる頃また切なくなったりしましたね。」
以前見たときはこんなセリフはなかった。しかし、妻も私も思い当たるところがある。私たちは静かにうなずいた。二つ目のマジック始まった。これも前回と一緒だ。今度はマジックの最中に、
「だんな様は、このように奥様の手をとってそっとリングをはめて、結婚してください。そう言うと奥様から目線をはずし沈黙してしまった。月明かりの中、指にはめられたリングの輝きより奥様の目の輝きを見つめ続けられなかったのでしょう。」
妻は笑いながらうなずいているが、なんて恥ずかしいことをさらりと言う。考えてみたが、そのとき月が出ていたかどうかは覚えていない。何しろ十年も前のことだ、でもはっきり覚えていることは、妻の目からこぼれおちた一粒の涙に喜びをかみしめていたのは覚えている。この後も前回とまるっきり同じマジックが続いた。しかし、私には同じマジックに感じられなかった。それはあたかも妻と私の回想録を見ているようで、身近なものに感じられた。妻もきっとそう思ったに違いない。
「私はマジック以外のことは、苦手でこのお弁当袋を作るのに七時間もかかってしまいました。奥さんも子供の体操着袋とか時間がかかったのではないですか。人間ずっとやっていることはそれなりに出来るようになるもんですね。」
と、彼は笑った。確かに今では家事を上手にこなす妻だが、初めの頃は、食べれなくはない料理にそれなりの掃除だった。子供が生まれたときなんかは、子育てに奮闘して、泣いていたのは子供より妻のほうだった。私は思い出して鼻で笑った。妻はそれを見て察したのか、私に軽く肘を入れた。

 「それでは、最後のマジックです。今まで人生を振り返ってきました。その中で失ったもの、得たものはたくさんあったと思います。今目の前にあるそのグラスでさえ・・・!気づかないうちになくなっている事だってあります。」
私たちは愕然とした。今さっきまで目の前にあったグラスがなくなっているのだ。マジシャンは風船を持ちこう続けた。
「失ったものは、もう元には戻りません。でも新たに作り上げることは出来ます。そうやってお二人も作り上げてきたのではないでしょうか。」
「ぱーんっ」
私たちは飛び上がった。風船の割れる音に驚いたのだ。次の瞬間、キラキラと舞う花吹雪。風船を持っていた手にはワインのボトルが握られていた。いつ出てきたんだと思いつつも、よく見ると十年前のワイン。なんともおしゃれなことだ。そしていつの間にかなくなっていた飲みかけのグラスの変わりに、ワイングラスが置かれていた。
「十年・・・長かったのか短かったのかは、私にはわかりません。しかし、空のグラスにワインが満たされていくように、確かにそこにお二人の軌跡は刻まれています。」
そういって彼は次の言葉を添えてワインを二人の間に置いた。
「結婚記念日おめでとうございます。」
彼は優しい笑みを浮かべた。最後のマジックが終わったとき妻の肩は少し震えていた。
「今まで、一番の記念日だったわ。ありがとうあなた・・・。」
最後のほうは聞き取れなかった。全く同じマジックなのにこうまで違った内容に見えるものなのか・・・。妻の喜んだ顔を横目に私はマジックの奥深さに感動していた。

 最後のひとしずくをそそぎ終えたとき、思い出したように彼は、
「私がお客様に差しあげられるものは、形に残らない不思議さというなんともあいまいなものです。しかし、一番大切なものをプレゼントできると信じています。それは・・・。」
そういうと彼は、ワインボトルをくるっと翻した。その中には先ほど妻がサインしたカードが。その裏にはスイートテンと書かれていた。私たちが驚くやいなや、彼は、はにかみながらささやいた。
「心に残る思い出です。」と。


著 有村愛龍


あとがき

2作目・・・ちょっと駄作でしたか

走り書きするとちょっとつめが甘いような・・・

もうちょっと表現を勉強して

3作目書き上げます




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