※BL含むお話です。
お好きな方、ご理解のある方のみ
下にお進み下さい。
では、どうぞ!
大野さんの隣にドカッと腰を下ろした。
「だって始まる前に会えなかったじゃん。」
俺は大野さんのところに行こうとしてたけどね。
とは言わずに「だね。」とだけ返した。
「今日、ショウくん来たんだ。」
あまり名前は出したくなかったけど、あの大野さんの笑顔を見たら聞かずにはいられなかった。
「あ、そうなの!」
パッと大野さんから花が舞う幻覚が見えて聞かなきゃ良かった。と、後悔している俺。
「ニノ、よくショウくん分かったね?もしかしてもう知り合い?」
あー…
分かったというか分からされたというのか…。
あの嬉しそうな大野さんの雰囲気で分からない方がおかしいだろ。
普段何考えてっか分からない大野さんだけど、ショウくんと一緒の時は気持ちがだだ漏れなのな。
あんなに気持ちが溢れだしてるのに、よくショウくんに伝わらないなと変に感心してしまう。
俺がこんな事考えてるのなんて知らないから、大野さんはん?と首を傾げている。
「さっき見たことない人と大野さんが話してるの見てさ、それでもしかしてその人がショウくんなのかなって。」
「なんだぁ、よく分かったね!だったら声かけてくれれば良かったじゃん!」
この人は悪気なく言ってるんだろうけど、たまに無神経だなって思う。
二人のあんな雰囲気の中に俺が入っていけるわけないじゃん。
まぁ、俺の気持ち知らないから仕方ないんだけど。
「他の奴に用事あったんで、そっち行っちゃいました。」
嘘だけどね。
用事なんてないけど。
それから大野さんと話してると、ショウくんがトイレから帰ってきた。
「あ、ショウくん!」
大野さんがあの人に向かって手を上げる。
ついに対面の時がきたか…と思いきや、何やらショウくんの様子がおかしかった。
入り口に立ったまま動かない。
間もなくして部屋を出て行ってしまった。
その理由がなんとなく想像できてしまう。
俺には。
「ショウくんどうしたんだろう?」
不安そうな表情の大野さん。
俺は首を捻るだけで何も言えなかった。
だって気づいてしまったから。
お互いそれを知らなくて、すれ違っているだけなんて。
二人は両想い。
確信ではないけど、多分きっと俺の予想は合ってると思う。
休憩が終わる頃、ショウくんはやっと戻ってきた。
レッスンが始まる前とは明らかに様子が違っていた。
表情も態度もおかしいし、何より目が赤く泣いた後みたいな顔をしていた。
その後もこっちには寄り付かず戻ってくるなり、他の奴のところに行ってしまった。
大野さんはさらに不安な表情になる。
不安というよりも何が起きたか分からなくて困惑している感じか。
レッスンが終わるまでショウくんは大野さんのところには来なかった。
目も合わせてこなかったみたいだ。
あの人は意外と分かりやすい性格なのかもしれない。
「ショウくん!」
堪らずといった感じでリハが終わると大野さんはショウくんのところに行った。
少し後ろで俺は見守る。
聞いてない素振りをして耳だけ傾ける。
話す大野さんの声が少し震えてる気がした。
ショウくんはあまり言葉を交わす事なく部屋を出て行ってしまった。
「ショウくん…」
遠くなるショウくんの背中を見て呟く大野さん。
その大野さんの肩に手をそっと乗せた。
小刻みに震える大野さんの肩は思ったよりも華奢だった。
「おいらっ…、ショウく…に、嫌われちゃった…っ、ぅ…。」
後ろ姿しか見えない大野さんはギュッと拳を握り締め泣いていた。
抱きしめたい。
その衝動にすごくかられた。
でもそれは叶わない。
俺の一方的な想いだから。
あの後大野さんはしばらく泣いていた。
俺はどうする事もできなくて、とりあえず大野さんが落ち着くまで側にいた。
さっきまで普通に話していた人に急に避けられる気持ちがどんだけ辛いか。
俺には分かる。
今の大野さんの気持ちに一番寄り添えるのは俺しかいない。
そう思った。
次の日ショウくんは仕事に来なかった。
大野さんは何も言わないけど、かなりショックを受けているように見えた。
きっと自分のせいだと、自分で自分を責めていると思う。
大野さんはそういう人だから…。
「大野さん、ちゃんとご飯食べてます?」
絶対食べてなさそうな顔。
顔色が悪い気がする。
「うん、食べてるよ。」
いつもフワリと笑う大野さん。
そんなの嘘に決まってる。
どんだけ俺が側で見てきたと思ってんだ。
「ホントあなた嘘が下手くそ。」
「嘘じゃないよ?ちゃんと食べてるもん。」
そういえばこの人って頑固だったと思い出し少し笑ってしまう。
「俺の前では素直でいて下さいよ。」
そんな見え透いた嘘なんて吐かなくていいから。
特別になりたい…この人の。
あまり素直じゃない大野さんが、唯一素直になれる場所になりたい。
「傷ついてるくせに、なんでもないフリなんかして。」
大野さん目には段々涙が溜まり、我慢していたものが次々と頬を伝って流れていく。
好きな人の悲しそうな顔を見るのがこんなにも辛いなんて。
胸の奥が苦しくて、張り裂けそうなくらい痛かった。
それをグッと堪え平然を装い大野さんの背中をさする。
「ごめっ…ん、ニノ…っ…」
「大野さん…」
なんて言葉をかけたら良いんだろう。
自分は無力だ。
こんなに辛そうにしてる大野さんを目前にして、何もできない俺。
大野さんは俺じゃなくてショウくんに側にいてほしいんだろうと分かっていながら、ちょっとでも俺を見てほしいと思う。
それから日に日に大野さんは元気を失くしていった。
ショウくんは次の日も、その次の日もずっと来なかった。
事務所の人に聞いたら学校の行事で一週間休みが欲しいと言っていたらしい。
この間テストで一ヶ月休んだばかりだというのにまた休むなんて。
学校ならば仕方ないと思う反面、それが嘘なんじゃないかとも思う。
どんどん顔色が悪くなる大野さんを近くでずっと見ていた。
ショウくんが休んでから7日目。
とうとう大野さんが倒れた。