※BL要素含むお話です。
お好きな方、ご理解のある方のみ
下にお進み下さい。

では、どうぞ!


















《和也視点》


小学校の時、俺はいじめに遇っていた。

俺が何をした訳でもない。
いじめられる理由なんてない。

助けてくれるヒーローは俺にはいなかった。
見て見ぬフリをする奴か、一緒になっていじめる奴ばかりだ。

物を隠されたり捨てられたり、誰かの物がなくなると俺が犯人にされたりもした。

その時の俺は気持ちを塞ぎ込んでいた。
友達なんていなくても平気だと強がってた。

ホントは寂しいくせに…
どうしようもなく傷ついてるくせに…


そのうち自分の殻に籠るようになった。
学校にいても会話をすることも、誰かと目を合わせる事すらほとんどなかった。


いじめてた奴らは、俺に飽きるとターゲットを変えた。

俺は見て見ぬフリをした。
助けなかった…最低だ。
他の奴らと同罪だ。

誰も信じられない。
信じたくもない。

傷つくのが怖かった。
そう思いながらも、いつかみんなと仲良くなれるかも…なんて期待してみたり。

笑っちゃうよ…そんな自分を。

何を期待しているのか。
友達なんていらないと卑屈になっている俺が。


中学に上がった時、親戚の姉ちゃんにジャニーズ事務所という所に俺の写真を送ったからと突然言われた。

その時の俺は、野球にしか興味がなかった。
だからそんなアイドルのオーディションなんて行くつもりなんてなかったんだ。

行かないと言うと、母さんに5千円あげるから行ってこいと言われた。
俺は金の力に負けたんだ。

軽い気持ちでオーディションとやらを受けたら、俺は見事受かってしまった。

ホント嫌だった。
目立つ事はしたくないのに。


少し経った後、ダンスの練習をするから来ないか?と事務所の人に言われたから遊び感覚で行ってみた。

そこには俺と同じくらいの歳の奴らがたくさんいた。
いろんな顔があった。

やる気に満ち溢れている奴

ダルそうにしている奴

楽しそうにしている奴

不安なのかキョロキョロしている奴

俺の場合は、最初から興味なんてないからやる気とかの問題じゃない。
俺は今とにかく野球が楽しかった。
野球が一番だし、俺には野球しかないと思っていた。

野球が全てだった。


人を観察するのが癖で、ついみんなの顔をみてしまう。

その中になんかオーラが特殊な人が一人。

猫背でボーッとしてて、でも中性的な顔立ちで髪が少し長めの肌が白い人。
その人に何故か目が止まった。

なんか気になる…初めはそんな印象だった。


初めて参加する奴は後ろの方で見てろ。との事だったので、俺は言う通り後ろでみんなの踊っている姿を見ていた。

もちろん踊りにも全く興味はなくて、ただ時間が過ぎるのを待つ。

あー…
早く帰ってゲームしてぇ…。

そんな事を思いながらボーッと見ていた。
そのはずなのに、気づけば俺の視線はあの人の姿ばかりを追っていた。

一番後ろで人の影に隠れるように踊っているのに、あの人のところだけ別世界ってくらい周りとは空間が違っていて。

あの人の真剣な表情が、ダンスが、すごくかっこ良くて美しい。

ぞわっと全身に鳥肌が立つ感覚がした。

俺はずっとその人を見ていた。


何時間か経って休憩時間になった時、真っ先にあの人のところに向かう。

仲良くなりたいって思った。

あ…。

俺の視線の気づいたのかばっちりと合ってしまう。

近くで見れば見るほどその人が男に見えなくて思わず…

「…男?」

なんて聞いてしまった。

自分でも初対面でタメ口はどうかな?って思ったけどもう遅い。

変な質問をしたもんだから、その人はびっくりして目を丸くしていた。

「当たり前じゃん?」

…でしょうね。
でも良かった。

それで女だと言われた方がどうしようと思ったけど…。
ここは男性アイドル事務所だったと思い出す。

そんな心配する必要なかったわ。
とりあえず自己紹介でもしとこ。

「俺は二宮和也っす。」

少し黙ってその人がふふっと笑った。

キュン…

胸の奥がなんかなった。

それが恋だと俺はすぐに気づいた。

俺はこの人を好きになったんだ…と。

「おいらは大野智。よろしくね。」

智…。
やっぱ男なんだと名前で確信する。

手を差し伸べられ、おずおずとその手を握った。
細くて長い綺麗な手指。
だけど俺と一緒くらいの大きさの手。

握った大野さんの手は、すごく温かかった。

今ごろ手汗が気になった。

「あだ名は?」

いきなりそれ!?
…まぁ、いいや。

距離を縮めるのって大切だし。

「なんて呼ばれる事が多い?」

「ニノ…が多いですかね。後はカズ…」
「じゃあニノで!」

最後まで言い切る前に言葉を断ち切られる。

そして突然笑い出す大野さん。

…ん?
なんか変な事言った?

「あ、ごめん。さっきの思い出して…ククッ」

「…あぁ。」

我ながらおかしな質問をしたと思う。
段々恥ずかしくなってきた。

「すいません。」

「おいらってそんなに女みてぇなのかな?」

良く言われるんだよね。と口を尖らせ首を傾げる。

その容姿からは想像しにくいほど、言葉使いは荒いが。

それもギャップ萌えってやつ?
…いやいや、違うだろ。

けど、この人は魅力だらけの人だという事は分かった。


それから、事あるごとに大野さんに話かけた。
この人をもっと知りたいと思った。

大野智という人に俺はどんどん惹かれていった。

優しい笑顔も
時おりフニャフニャした表情も
集中する口も
眠そうな顔も
柔らかい話し方も
踊ってる時の真剣なかっこいいところも

大野さんのすべてが魅力的だった。

そして俺の事を大野さんは受け入れてくれたんだ。
単純に嬉しかった。

とにかく近くにいたくてベタベタ触ったり、意味もなくケツを掴んだりした。
俺の変わったスキンシップを大野さんは嫌がらず(最初はかなり抵抗してたけど)受け入れてくれた。

大野さんは特別で、俺にとって大切な存在になった。

柔らかくて穏やかで心地よい空気。
顔色を伺う必要なんてないし、ビクビクする必要もない。

自分の居場所が見つかったみたいで、ここに居ていいんだよって言われてるみたいで嬉しかった。


…なのに

大野さんの隣は俺の場所だと思っていたのに…違ったんだ。


最近、大野さんの口から《ショウくん》という名前がよく出てくる。

最初はあまり気にしてなかった。
けど、その名前が頻繁に出てくる事に気づいてからなんとなく…
なんとなくだけど、嫌な予感がした。

何よりもその《ショウくん》の話をしている大野さんの表情が物語っている。

好きだ…と。

大野さん本人はそんな事言わないけど、俺には伝わってしまう。

その場の空気に敏感が故の残酷な瞬間。

知りたくない事を自ら察してしまう俺のサガ。


「ショウくんがね…」

ほら…その顔。
あんたは気づいてないでしょ。

今もショウくんの話をして、ショウくんを思い浮かべてる。

その表情がどんななのか。
愛しい人を思う瞳。

話の内容なんか入ってこなくて、大野さんが何を話していたか全然覚えてない。

告白せずに失恋をしたのか…。
いつも俺の味方の察知能力がこの時ばかり仇となる。


気になる《ショウくん》の存在。
どんな人なんだろう。

今は学校のテストに集中するためにショウくんは休んでいると大野さんは言っていた。
それが終わればいずれショウくんに会う事になるだろう。

この時俺はどうなる…。

やっと見つけた大切な人を、俺の居場所を取られてしまうのだろうか。

居場所がなくなってしまう。
誰にも取られたくない。

友達なんていらないと思っていたのに、俺は見つけてしまったんだ。

俺が俺でいられる人を…