9月第一週目の日曜日、東急世田谷線沿線を歩いてきた。
世田谷線はこれまで何度か利用したことがある。
詳細は書かないが、行事の度にお世話になった思い出の地も潜んでいる路線だ。
ころんとした2両電車、窓に迫る住宅街をマイペースに掻き分けていくさま。これらは、通常イメージされる電車とは明らかに趣向が異なる。そんな不思議さをはらんだ路線の旅日記を書いていく。
「世田谷線」と一見して繋がらないサブタイトルについては、後に明らかにしよう。
 
今回の旅で一番見たいと思っているのは、豪徳寺にあると言われる「大量の招き猫」。
これは以前から興味深々であった。
 
しかし、そのほかの情報も収集しながら
あるひとつの予感が現実になりそうで、胸の中のざわめきが大きくなっていく・・・
 
 
世田谷線ってもしかして
 
招き猫しか見るところないんじゃないか?
 
 
本当に失礼だが、調べても他の観光情報がなかなか出てこないのである。
 
それでも、なんとかルートを作り、手帳に書き込んでいった。
全く使っていなかった筋肉の毛細血管に、一気に血を巡らせるように
知らない駅と駅、店と店をつないで道を押し広げていく。
その押し広げる過程には、実際の散策と同等の面白さがあるのかもしれない。
実際にはどんな風景が見えるのだろう。
没頭している時間は、一瞬だけキラキラして現実を忘れることができる。
もう旅は始まっているのだ。
 
 
 
 
 世田谷線は黄色で囲った路線だ。
 
下高井戸からスタートし、小さな2両だけの車両に乗り込む。
下の写真は、途中駅の宮の坂で撮ったもの。
 
 
 
なんと、招き猫バージョンもある。
猫が滑り込み、風で草がさわさわとそよいだ。
東京の路線はどこも忙しなく、私も含めて人の表情に余裕が無いと感じる。
だが、この世田谷線には信じられない程のんびりした雰囲気が漂っていた。
ちなみに乗り方が特殊である。
私はスタートの下高井戸でタダ乗りしたかと大変焦った。
どうやら、最初と最後の駅だけ改札口があり、途中駅で乗り降りする時は
電車内でお金を入れる方式らしい。
バスに似ている。
座席まで全部正面を向いていて、戻りの電車は座席が後ろに引っ張られる感覚になることもある。
みんな家に帰るためにこの路線を使っているのではないか。
きっとここが地元の人が多いのだろう、などと想像を巡らせる。
 
 
 
 
はじめに、松陰神社前で降りた。
nostos booksという古本屋さんが駅前にある。
古本屋=ブックオフで思考停止しているので、どんな本があるのか気になり入店。
 
ここで推されていた、「家をせおって歩いた」という本がなんとなく目に留まる。
著者は2014年、25歳の時に発砲スチロールで作った家を担ぎ、日本国内を移動しながら生活していた。その時の一年間の記録が本に綴られている。開くと、日記形式で感じたことや人に言われたことが書かれている。色んな意味でやばい人だと思った。
確固たる信念があって試みることって何でもかっこいいと思うし、1ページ目からこの人の行動力を尊敬した。サバイバル録これから読んでみる。おもしろいかなあ。
 
 
nostos booksの隣が濃すぎる。
カキは飲み物。
 
商店街は、まだコロナの影響もあり人が疎らだった。
手作り感が伝わってきて可愛い。
 
 
松陰神社の鳥居、漆黒で赤より良いと思う!
この時、雷がゴロゴロ鳴り出したので急いで参拝する。
 
 
 
吉田松陰のお墓が神社の奥にあった。
吉田松陰について詳しくないので、調べてみたところ
 
 
『ペリーが来航した時に、海外に強い興味を持ち、小舟を盗んで黒船に忍び込んだ。そして長州藩の牢屋に入れられた』
 
 
という超チャレンジャー過ぎるエピソードが出てきて笑った。
強すぎる。
迷惑系YouTuberかな?
実況してるとこ浮かんできちゃった。
 
その後、実家に戻り叔父が開いた松下村塾を引き継ぐ。
塾には、のちの首相となる伊藤博文、江戸幕府との戦いに勝った高杉晋作らがいたと。
吉田松陰は教育者として称えられている。
 
なるほど、と思いつつも肝心な話が全然入ってこない私。
 
上町にあるYOUR DAILY COFFEE
サンドイッチの密度高めで満足。
 
今回目的の豪徳寺の狛犬。
上町から10分程度か?歩いて行ける距離にある。
 
豪徳寺に入って奥に進むと、外国人観光客に向けたマップを発見した。
招き猫をLucky Cat'sと表現している。
これでいいの!?
訳が安直すぎて拍子抜けする。
 
そして見たかった招き猫ゾーンへと進む。


 
すごい数!!!
 
小さい招き猫も!!
 
怖いくらい招き猫がいる。
よくここまで並べたなあ。
 
調べると、豪徳寺は招き猫発祥の地として知られているらしい。
 
江戸藩邸にいた井伊直孝がある日、鷹狩りの帰りにこの辺を通ったら、
猫が自分を招いているように感じて、門内に入った。
すると急に天気が雷雨になった。
猫のおかげで雷雨を避けられた!ありがとう!ということで、お寺に多額の寄付をして立て直しをした。だから猫を祀った寺、というほっこりエピソードが出てきた。
小判を持っていないのは、井伊家の考え方が影響しているそうで
「チャンスは与えるけど結果(小判)は自分でつかめ」って意味らしい。
 
 
 
えっ
 
金くれや・・・
 
 
 
寺では招き猫を買うことができる。
願いが叶った人はここに置きにくるらしい。
 
 
自分の努力なんだけどね。
 
ん???
 
この時点で矛盾を感じ始める。
 
心ここにあらずのようにも見える招き猫の目。
その数に圧倒されていると
あるワンシーンが頭の中で降りかかってきた。
あれじゃん!!!
この奇怪なパレード。頭の中で平沢進が急に歌い出した。
 
おわかりいただけるだろうか。
今敏の映画「パプリカ」に出てくる、狂気のパレードシーンに招き猫がいるのである。
 
ああああああ!!
完全に一致した。
 
豪徳寺の世界観これなんだよ・・・
映えスポットじゃなくて肝試しスポット?
 
精神病患者の夢を脳内に流し込まれた所長が
突然、支離滅裂なことを言い始める。
「~オセアニアじゃあ常識なんだよ。」
 
このパレードは精神病患者が見ている夢。
YouTubeでパレードで検索したらしっかり出てきた。
豪徳寺のおかげでまた衝撃的な記憶を脳内に刻み付けられた。
怖いけれど癖になる。
 
 
 
守りたくなるサイズの猫もいるから
忘れないで・・・
 
 
すぐ近くに世田谷八幡宮もあるので参拝。
水の音に耳を傾け、涼を感じる。
 
豊作・凶作を占う奉納相撲を毎年行っているらしい。
初めて土俵を見ることができた。
神社の中にあるのが新鮮な光景だと感じた。
 
宮の坂駅には、かつて走っていた江ノ電が一般公開されている。
鉄オタではないが、妙に気分が上がる。
 
おトクなけいじばん
この電車に乗ったとき、小さい男の子が乗ってきた。
お母さんはまだ後ろを歩いていて、追いついていないらしい。
 
何も知らない私に電車のことを沢山教えてくれた。
運転席の窓の上を指差し、
「電気消せるんだよ!」と話してくれる。
私たちは電気をチカチカさせて楽しんでいた。
電車内はとてもレトロで、
 
 
網棚の上に、かつての活躍ぶりが写真で展示されている。
 
 
「ここにきっぷを入れるんだよ!
ここもカメラ撮った方が良いよ!」
「そうなんだ!」
 
「運転席も撮った方がいいよ!」
 
 
「ここで扉開けたり閉めたりできるんだよ。」
「ほんとだ、ボタンが押せる。開けられるかなあ。」
 
無反応だった。
 
「窓開けられるんじゃない?」
「そうだよね、暑いし。」
 
運転席の窓も渾身の力を込めて開放しようとしたが、びくともしない。
 
つまらねえと思いながらサッシの方を見やると『開放厳禁!』のテプラが見えて静かに我に返った。
此ノ戸、他ノ戸と書かれていて江ノ電には丁寧さを感じる。
 
「ここあけて下を見たりするのかも?」
「ああ、そっか。そうかもね。昔の電車の床って、木で出来てるんだ。」
 
「ねえ、ここも開けて見な~?」
「うん!(ダレノガレ明美・・・)」
 
「連結するところだよ。」
 
「モーターみたいなところかな。」
 
一通り見たところで、ご家族が迎えにきてバイバイした。
教えてくれて助かったよ。
懐かしい雰囲気を味わうことができるので、個人的にはとても良かった。
電車内の写真を楽しむことができる。
江ノ電が今、世田谷線沿いで静かに眠っている変遷も不思議。
アジカンの「サーフ ブンガク カマクラ」のアルバムを流したくなる。
 
少し歩いたところに
和菓子屋さんがあったので、初めて上生菓子を食べてみた。
 
手前は7月に出る和菓子で、撫子。
奥は麩まんじゅう。
抹茶は苦みが強いけれど
撫子の控えめな甘さで丁度よく緩和される。
強烈なあんこの味が襲ってくるかと覚悟していたが
全くそんなことはなかった。
麩まんじゅうに至っては、食感が予想外だった。
白い、特別にやわらかいクッションにゆっくり落ちて、さざ波が見えるほど拡がっていくような
包みこまれる感覚。
とてつもなく上品な時間で締めくくることができた。
汗だくだけれど。
 
 
 
おしまい。