「お久しぶりです。」
扉を開けて私を出迎えたのは、懐かしい顔ぶれだった。こわばった体から一瞬で緊張が解けていく。


私は会社を退職後、派遣会社に登録して働いたり、働かなかったりする日々を過ごしていた。それならここで働かないか、という奇跡に近い誘いを受け、学生時代のアルバイト先に舞い戻ってきたのだ。


真っ白な部屋を見やると、漫画の集中線のごとく飛び込んできたものがある。
プリザーブドフラワーだ。

なんで…
まだ咲いてる…。

卒業前に感謝を込めて贈ったものを飾っていてくれた。だが、眺めていた3秒間に絶望と希望に両腕を引っ張られるような感覚になって変な顔になった。


ここは、良い意味で何も変わっていない。
あるべき位置にコップがあり、いてほしい人たちが消えることなくそこにいる。温かい人間関係が築かれている。しかも、全員が若返っているような気さえした。居場所って、あるんだ。


その一方で、時は同じように流れているはずなのに自分だけが老け込んだ気がした。就職してから毎日陰で泣いて、吐いて出社して、電車に飛び込もうと頃合いを見図って、いや電車の会社に勤めてる友人に悪いからこの方法だけは避けよう、と本気で考えていた時間は何だったのだろう。パラレルワールドに強制送還されていたのだろうか。


「もう体調は大丈夫なの?」

はっとして、プリザーブドフラワーから目を逸らした。

「あっ、もう大丈夫です!!」

だいじょうぶ…

ここでは平気だが次の職場でまた人格否定が毎日続いたら、とかいらぬ心配の渦にとらわれる。その渦が消えなくても、この場所で受け入れられていることが嬉しくて、家に帰って涙がこぼれた。

私が購入したプリザーブドフラワーは1年ももたないかもしれない部類の商品だった。注意書きには、生花だから時間が経つとぼろぼろ落ちてくると書いてあった。だが、約1年半経つのに新品のままだった。だんだん、買った時のわくわくした気持ちのままでいて良いような、無言のおかえりなさいを言われている感覚になってくる。どんなに時間が経っても変わらないものが1つでもあると、安心できるのだろう。


生きていて本当に大切にしたい繋がりを見つけた時、またプリザーブドフラワーを贈ってみても良いのかな。