霊性と美術の結晶:ダマヌールの地下神殿 | 【 未開の森林 】

霊性と美術の結晶:ダマヌールの地下神殿


地の神殿


「人間はだれでも聖なる本質を宿しており、霊性の生態系(スピリチュアル・エコロジー)の活動において、欠かせない役割を果たしていると我々は信じています」 信者の言葉より


鏡の大広間(入り口から左)

十数年前まで、ほんの一握りの信者達のみに存在を知られていたダマヌールの神殿は、イタリア北部のアルプスの麓に抱かれたヴァルチュセーラ (Valchiusella) という村にあります。


鏡の大広間(入り口から右)

地下70メートルの深さで建築された全9室の神殿は、8500立方メートルの空間を占めており、現在使用されている神殿で世界有数の大きさの建築物です。


地の神殿に描かれた壁画の一部

不思議に包まれたダマヌールの神殿は、ある人物の想像力から生まれました。彼の名はオベルト・アイラウディ。芸術家という名称で括るにはあまりにも幅広い視野で活動してきた彼は、新興宗教の指導者と言った方がふさわしいと思います。


Oberto Airaudi

1950年、イタリアのバランゲロで生まれたアイラウディは若いころから瞑想や超常現象に興味を持ち、催眠術・身体離脱・空中浮遊といった超能力の可能性を研究しはじめました。


外見はまったく普通の家の下に、巨大な地下神殿が隠されています

20代の頃、彼は人類の精神的な歴史を凝縮した神殿を構想しました。「もし中世時代のキリスト教の信者達が、建築家や技術専門家などの助けを得ずに大聖堂が建てることが出来たのなら、自分にも実現可能に違いない」と彼は確信していました。


鏡の大広間を飾る世界最大のステンド・グラスの天井

資金を調達するため、彼は百科事典の訪問販売を始めますが、高収入の仕事を求めて保険外交員になることを決心します。23歳の彼はトリノ市で保険代理店の事務所を開き、身体障害者の人々を卒先して雇います。人情のこもった会社は順調に成長していき、毎年、利益を倍増していきます。


鏡の大広間につながる回廊

1975年、アイラウディは人類に秘められた可能性を探る研究グループ「ホルス・センター」をトリノ市で設立しました。「ホルス」はエジプト神話に登場する天空と太陽の神の名です。この団体を構成していた人々は、後にアイラウディを霊的な指導者として認め、ダマヌールという生活共同体を形成することになります。古代エジプトの地下神殿の名から因んだダマヌールという名称は「光の都市」という意味を持っています。


鉄の神殿

アイラウディが構想したダマヌールの神殿はあまりにも巨大なスケールだったため、建築の許可を法的に得ることは無理だという結論が出されました。しかし1977年、真夜中の秘儀のように地下の建築が始められ、徐々に世界各国から集まってきたボランティアの人々は、壁画やモザイク、ステンド・グラスの窓など、それぞれの才能と想像力を生かして神殿の建築に貢献しました。


水の神殿

彼らの地下活動はその後の十五年間、近所の誰にも気付かれずに進行していきました。しかし1990年代前半、団体を脱退した一員によって、神殿の在り処を示す地図が地元の裁判官の手に渡ります。この地域で何か不審なことが起こっていると疑っていた裁判官は、確かな証拠を目にして、イタリア政府に通報します。


地の神殿

ある日、数機のヘリコプターが上空を旋回するあいだ、数百人の武装した兵士が神殿に押し入ります。しかし神殿の内部に足を踏み込んだ彼らは、華麗なステンド・グラスやモザイク、古代ギリシャを彷彿させる円柱などで構成された巨大な空間に驚かされます。同行した裁判官は神殿の荘厳な佇まいに圧倒され、感動の涙を流したと言われています。


この裁判官の助力を得て、イタリア政府に合法と認められたダマヌールは、建築家、芸術家、科学者、また農夫や園芸家などを含む800人以上の信者が構成する共同体へと成長しました。


ダマヌールは人類が霊的な存在として目覚めることを一つの目的としています。地球と人類がさまざまな危機に脅かされている現在、人間一人々々を大切に扱い、その魂の成長を育むような環境を提供する新たな文明が必要だとアイラウディは説きます。未来につながる文明を創造するには、人々がお互いの心のなかに「美」を見つけることが大事であるとも彼は言います。


個人が独自の才能と個性を表現していくことによって、人類が共同に進化していく。それは文明の進歩というものが、科学の知識や資本主義的な世界観だけではなく、美術と想像力によって発展していくのだという、根本的な理想をあらわしています。神殿のなかで音楽・ダンス・瞑想などを交えた儀式を行うことは、ダマヌールの生活において重要な位置を占めています。


神殿付近の敷地に設立された研究所では、古代エジプト・ケルト族・アラブの叡智を統合したセルフィックという霊的科学の研究が行われています。面白いことに、この科学体系において「宇宙の原理である螺旋または渦巻きの力」が重要な概念となっています。また、鉄などの素材に潜む性質、色彩や音楽を使った意識の誘導、植物が奏でる不可聴の音楽、時空旅行の可能性、知的エネルギー体との交流など、ダマヌールの信者達は実に想像的な視野で研究を進めています。


現在、ダマヌールは独自の政治組織・通貨・学校・病院などを持った地域社会となっており、40以上の事業を運営しています。農地で家畜を飼育したり、野菜を耕したりするほか、陶芸や織物のスタジオでクラスも提供しています。付近の村からは、地域経済の活性化に大いなる貢献をしたと賞賛されているそうです。

ダマヌールの公式サイト(英語)