突然ですが、みなさんは狼に育てられた少女の話を聞いたことがありますか。

 

わりと有名だと思いますが、以下に簡単に説明します。

 

キリスト教伝道師としてインドに赴任し、妻と二人で孤児院を運営していたシング牧師は、1920年に、ジャングルの中の洞窟で子連れの母狼と共に暮らしていた2人の女の子を見つけます。

 

発見当時この少女たち(カマラとアマラと名付けられました)は推定年齢1歳半と8歳で、4本足で歩き、生肉を手を使わずに食べ、夜になると目を輝かせて遠吠えをしたそうです。

 

アマラは1年ほどで死にましたが、カマラは約9年間、シング牧師夫妻の下で教育されました。

 

8歳まで狼に育てられたアマラは、その後の9年間の献身的な養育にもかかわらず、直立歩行も言葉の使用も完全にマスターすることはできませんでした。

 

この話は日本では昭和30年に、「狼に育てられた子」という題名で新教育教会出版から翻訳出版されていますし、教科書にも掲載されています(道徳、心理学、言語学等)。

 

人は、人間社会の中で、人の手によって適当な時期に人間教育と学習がされなければ、本当の意味で人になることはできないため、人間形成において、誕生後の環境や教育が非常に大切であると言うことはよく言われます。

 

その一つの例として挙げられたのがこの「狼少女」なんです。

 

しかし、近年になってこの「狼少女」は作り話であることが判明しました。

 

驚いたでしょう。

 

人類学者バーンは、実際にインドに行きゴダムリの村の存在を確かめようとしましたが、この村は現在どころか過去にも存在しなかったんです。

 

アマラとカマラについても、当時孤児院にいた人々は風変わりな子どもがいたことは覚えていましたが、特別に「オオカミ的」な行動を示したかを覚えている人は誰もいませんでした。

 

また、この少女たちの話の真実性は、生物学的にも疑問があります。

 

まず、人間の赤ん坊は自分で母親の乳房を探すことはできませんから、狼では授乳できません。

 

それから狼少女が木登りをしたり真夜中に遠吠えをしたらしいのですが、狼は木に登りませんし、真夜中に遠吠えしません。

 

また、狼は時速45km前後で走るのに対して、人間は大人の最高でも35kmでしか走れません(それでもオリンピック級です)。

 

まして、子どもが四足歩行で狼についていけるはずがないんです。

 

そのため、今では、狼少女は捨てられた精神薄弱の子どもだったと考えられています。

 

インドではこういった子どもたちは、「役に立たない」ので貧しい地方で捨てられることがあったようです。

 

しかし、こうして生まれた「神話」は一部の人々にとって都合の良い内容であるために、一人歩きし、(作り話であることがほぼ証明されたにも関わらず)今でも信じている人が多いんですね。

 

これに類したことはこの世の中に結構ありますから、注意しないといけません。

 

長くなるので明日に続きます。

 

では