こんにちは、土井英司です。
経済であれビジネスであれ、全体が悪い時というのは大体、努力ではなく、システムや組織に問題があることが多い。日本でアート振興が進まないのは、超富裕層が生まれない税制のせいですし、ユニコーン企業(1000億円企業)が生まれないのは、おそらく規制緩和が進んでいないせいですよね。
なにせこの国は、タクシー業界を守るためにUberを規制しちゃう国ですからね。
中国のように、規制をかけつつ自国の企業にやらせるならわかるのですが、それすらせずに、既存企業を守るだけに終始する。変わったのは、タクシー会社がアプリを作ったことだけ。そんなんで国が発展するわけがないですよね。
と、ちょっと毒づいてしまいましたが、要するに言いたいのは、仕組みを変えろ!ということ。
なかでも今、問題なのは日本の旧態依然とした組織。
日本は優秀な人材が大企業に集中するので、画期的な事業を作ろうと思ったら、どうしても大企業の人材を活用するしかないのですが、その大企業が、機能不全を起こしている。その理由は、日本企業が相変わらず「モノ作り」中心の組織になっているからです。
アマゾンにしろ、グーグルにしろ、アップルにしろ、フェイスブックにしろ、現在、時価総額上位の企業は、どれもカスタマーセントリック(顧客中心主義)な企業。お客にとって「心地良い」UX(ユーザーエクスペリエンス)を提供した企業が世界を獲る時代ですから、モノ作り中心の組織では、どうしても行き詰まるのです。
そこで、考えたいのは「マーケティング」を中心とした組織革命。
昨日(5/30)にご紹介した、元USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のCMO(Chief Marketing Officer)、森岡毅さんの新刊は、まさにそのマーケティング中心の組織革命を説いた本です。
『マーケティングとは「組織革命」である。』森岡毅・著 日経BP社
ご存じない方のためにご紹介しておくと、森岡毅さんは、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を奇跡のV字回復に導いた
天才マーケター。
実務ができるだけでなく、しゃべらせても書かせても滅茶苦茶面白い、稀有な人物です。(エリエスでも一度、ご登壇いただきました)
氏が書いた『確率思考の戦略論』は、マーケターなら誰もが読むべき、本格的なマーケティング論です。
そんな森岡さんが、USJを辞めて独立後、初めて書いたのが、新刊『マーケティングとは「組織革命」である。』です。
いつも意表を突く方ではありますが、まさか組織マネジメントについて書いてくるとは。正直、面食らいました。
なぜマーケティングを成功に導くのに「組織革命」が重要なのか、どうやれば組織を動かし、新商品やサービスを爆発的ヒットに導けるのか、一介の部長の立場からUSJを立て直した著者の、理論と成功秘話が語られた、じつに興味深い論考です。
日本企業では、商品開発部とマーケティング部が切り離されていることが多いのですが、これに関して、森岡さんはこんなコメントをしています。
<商品開発は何を行っているのか? 彼らは魚(消費者)を食い付かせるための“エサ(商品)”を開発しています。「魅力的なエサ」は魚を釣るために最重要ですから、商品開発はマーケティング・システムにとって最重要機能だとご理解いただけると思います>
しかし、土井が以前、講演で訪れたメーカーさんでも、商品開発部は宣伝部とは切り離されたところにあり、カスタマーセントリックとはほど遠い状態でした。
商品開発、製造がいわゆる「モノ作り職人集団」で、マーケティング部を疎ましく思っているような組織では、これからの競争には勝てない。iPhoneだって、本来ならソニーが作っていた商品だと思います。ソニーは技術で負けたのではなく、マーケティングで負けたのです。(ソニーの優れた技術が組織によって潰された逸話は、枚挙に暇がありません)
土井は日本人として、これ以上日本企業がグローバル競争で負けるのを見たくありません。また、大企業の優秀な人材が、目をキラキラさせてプロジェクトに取り組んでいた、かつての日本経済を取り戻したいとも思っています。
人間も組織も、気づかないうちに年を取り、時代からズレてしまいます。
そうならないためにも、定期的にシステムを見直すことが大事です。
企業において、一番大事なのは、「顧客との接点」。
なぜなら、組織を養うのに必要な原資のすべては、顧客からやってくるからです。粗利がすべてのビジネスの起点なのです。粗利を上げたければ、お客様を知り、喜ばせることに徹すること。
これに集中するには、組織形態がマーケティング起点になっていなければいけないのです。
これから組織改変を考える人は、ぜひ森岡さんの本を読んで、「マーケティング」の視点を組織改革に入れてみてください。