こんにちは、土井英司です。
今日は、Airbnbで借りたセントラルパーク北のアパートから、ブライアントパークの近くにあるホテルに移動。歩いていたら、セントラルパークの真横に"Salesforce Tower"なるものを見つけました。
どうやらこのビル、2年前にSalesforceがオープン告知をしていたみたいですね。1階にはWhole Foods Marketが入っていて、いかにも最先端のビルといった感じ。Whole Foods Marketのレジには大行列ができていました。
おそらくそのうち、ニューヨーク中のホールフーズが最先端のIT企業が所有するビルの1階に入って、Amazon GOでレジいらずになるんだろうなあ…。
(アマゾンはホールフーズを買収しています)
なぜアマゾンがホールフーズを買ったのか?
それは、本やCD、DVDなどよりも食材の方が、顧客の使用頻度が高いから。現在、Eコマースの世界では、なるべく購買頻度の高い商売を手に入れて、顧客との接触頻度を増やし、他のものもクロスセルするやり方が主流です。
アマゾンがホールフーズの利便性を極端に高めれば、現在オンラインのアマゾンで起こっているのと同じこと、つまり「購買体験が快適だから何でもアマゾンで買う」動きが、オフラインでも起こります。そう、アマゾンが売っているのは商品ではなく、顧客体験や利便性なのです。
だとすれば、アマゾンが仮想通貨に手を出しても、まったくおかしくないですよね。
アマゾンにとっては、品揃えもディスカウントも、それを実現する売り手の存在も、すべて手段に過ぎません。「快適な購買体験が実現できれば、すべてのものが売れる」とアマゾンは考えているのです。究極は、お金も何も持たずに手ぶらで買い物をして帰ること。もっと言えば、今すぐ使わないものは送らせる、使用までにタイムラグがある場合、たとえば買い物をした後、ミュージカルを見るなどの都合があるなら、生鮮品はその後ポストで受け取るか配送するなどすればいい、ということになります。
ヤマトホールディングス元社長の木川眞さんが、<通販の究極の姿というのは、好きな時に、好きな場所で、好きなものを受け取れるということだと思うんです。極端な話、「×時×分に銀座を通りかかるので、そこで商品を受け取ります」という世界です>とおっしゃっていましたが(『未来の市場を創り出す』日経BP社)、皮肉なことにこれを実現するのは、おそらくヤマトではなく、アマゾンでしょう。アマゾンはどんな配送でもドローンやロボット、自動運転車を使って実現しますが、人員を抱えているヤマトはそうはいかないからです。
Salesforceにしろ、Amazonにしろ、いまは「持たない経営」を実現している会社がどんどん成長しています。企業にとっては、「何を持たないか」「何を持つか」が、戦略上、とても重要になってきています。なぜなら、「持つこと」は未来の足かせになるからです。
この2社は、自分たちが「持たない経営」を実現したばかりか、他者に対しても、「持たないことの快適さ」を提供しています。Salesforceは、企業に対して持たないことの快適さを。アマゾンは、個人に対して持たないことの快適さを。そう考えると、この一見まったく異なる2社が、そのうち対決しても、おかしくはありません。
おそらく、先んじるのはアマゾンでしょう。アマゾンは自動運転も、運送業も、金融も、快適な顧客体験のためのすべてを手に入れ、究極のプラットフォームを構築する動きに出るはずです。
まったくもって今のIT業界はオセロゲームです。誰が角の一枚をひっくり返すのか、まったくわかりません。
わかっているのはただ一つ、この「快適な顧客体験」という方向性です。そのためには、所有は今や足かせなのです。
「所有」というのは、世の中の移り変わりを見る、一つの視点です。ニューヨークの高層ビルも、そんな視点で見ると面白いですよね。
あ、そういえばSalesforce Tower New Yorkの隣には、Bank of Amaricaのバカでかいビルが立っていたなあ…。