いつまでもこうして座って居たい

             新しい驚きと悲しみが静かに沈んでゆくのを聞きながら

                 神を信じないで神のにおいに甘えながら

                はるかな国の街路樹の葉を拾ったりしながら

                    過去と未来の幻燈を浴びながら

                  青い海の上の柔かなソファを信じながら

                        そして なによりも

                      限りなく自分を愛しながら

                  いつまでもこうしてひっそり座って居たい



                    (谷川俊太郎「静かな雨の夜に」)












静かな 春の夜の雨が降っている


冷たい涙のように 思う人がいるであろうか


そぼ降る雨の音


哀しみの切ない雫・・・





だけどこうして


ひとり夜の中に居ると


窓の外の暗闇は


美しい雨糸が 幾筋もの光になって


天と地を 繋げるように 真っ直ぐに落ちてゆく


そんな光景が 見えるような気がする





織られてゆく水鏡

映るものは 此の世のあらゆるもの


淋しさも戸惑いもみんな 


其処へ流れてゆくのだよと


そう知らせるためのように 


音を立てている雨は


ためらいがちだけど やっぱり 


やさしい


あたたかい  雨 ・・・






雨は愛のやうなもの・・・


と 室生犀星は言った



どんな時でも、


愛の中に居られることは幸せなんだ・・・ 


と・・・





風のない 夜のしじまの静寂に

時折 柔らかな


雨の音が 響いていくたびに


雨の夜は そうだなって


春の夜の 雨は そうだなって





そんなことを想う・・・