五月の風は夜もさわやかで


昼間の熱が少しも残っていないような冷たさの中にも


清々しい薫りが閉じ込められていて漂い流れてくるようだ





夜になると その日の出来事も前後の日の出来事も


何か起こっていたとしてもリセットされるような気がするのはなぜだろう


そのために暗闇が来るのだろうか 暗幕で舞台が終わってしまうように


そしてまた夜明けがくると 新しい物語が始まるように





夜がいつもセンチメンタルというわけじゃない


でも五月の夜風は 私にある記憶を思い起こさせる


祖母が逝った連休のある一日を 今も忘れることはない





同居していた父方の祖母を亡くしたのは高校に入学した年だった


急に倒れて丸一日後のことだった


あとになれば闘病がなかったことはよかったのだと考えることもできたけれど


その時はショックという言葉では到底足りない深い悲しみに


現実がどうしても受け入れられず随分長く立ち直ることができなかった





五月の風はやさしく薫るけれど


長い間悲しみを運んできた風だった


もっと小さい頃の 祖母との時間を思い出させる風でもあったから


そんな懐かしさを 悲しみに変えた風だったから






でも、いつごろからか・・・


かなしみとやさしさが半分ずつの風になった


それからしばらく経って


かなしみは少しでやさしさが多い風になった




そしてだんだん・・・


いつか、やさしさだけの風になっていった


なつかしさも一緒に 吹いていった






今も考える


五月になると思い出す


夜、風に吹かれると思い出す



あの時のわたしと 途中のわたし


あの時の前のわたしと 今に近いわたし




そして今はなにもかも


すべてのことが一緒になって


それでもどこかに 淋しさがあるけど


やっぱり五月の風ってやさしくて


なつかしくっていいなぁっておもう・・・













~あしたへのエピローグ~-q





                           ※写真は夜のじゃなくてなくてすみません

                                 少し前の花壇と一緒、

                                 久留米の石橋文化センターの中の花菖蒲です

                                 今はもっと咲いているんだと思います