やがて青年は、町の中に到着した。そこは、1本の道の両側に、建物がずっと並んでいた。しかし、今は夜なのだが、窓から明かりが見えない。そのため、周りが真っ暗なのである。いや、ごくたまに、明かりのある窓があちこちに見えてはいる。青年は、今夜は明かりのある家のどれかにでも泊めてもらおうかとも考えていた。
そこへ、3人の黒服姿の者達がやってきた。そして、その1人がこう言ってきた。
「夜は外出禁止だぞ」
青年はそれに返事はしなかった。そのあと、別の1人が青年の両肩をつかんで叫んだ。
「おい、何とか言ったらどうなんだ」
かなり強い力である。青年が見たところ、3人は憎悪に満ちた顔をしていた。それに反応してか、青年は突然、肩をつかんでいる両手を振り払い、3人に殴りかかろうとした。
「何、こいつ、やたら反抗的だな。よーし構わん、やっちまえ」
1人がこう叫んだと同時に、1人対3人の格闘が始まった。青年は強い。3人がかりでもなかなか歯がたたない。しばらく格闘が続いていたが、突然、青年は有り得ないような光景を目にした。相手が6人になっている?遠くから加勢が来たのではない。分身して増えたような気がした。さすがにこれほど多人数となっては、青年が捕まるのも時間の問題であった。
「ようし、こいつを牢屋に放り込んでおけ」
青年がどこかへ連れ去られようとするとき、突然、奇妙なでかい音がした。いや、音というより、誰かが話すような声であった。それが町全体に響くような、低い声である。
「この者をここへ連れてこい」
青年にも確かにそう聞こえた。黒服の者達が互いに話し出した。
「連れてこいって、もちろん、御殿にだよな、支配者様のおわせられる」
「そうだな、それ以外にはない」
「さあ来い、逃げたりするなよ」
青年はおとなしく3人に付いていった。格闘で疲れていたのもあるが、声の主の正体に興味が出てきたりもしていた。