「幻」って言うとちょっと大袈裟なのですが、確かに今はもう味わうことが出来ないため私にとっては幻となってしまった料理があります。
以前、下北沢にジモピーに人気の定食屋さんがありました。
何種類もあるオムレツが名物というか評判の定食屋さんですが、洋食屋ではなく鯖の塩焼きなどもある普通の定食屋さんです。
初めてこの店を訪れたのは当時付き合っていた彼女が一緒でした。教えてくれたのもその彼女です。
以来十数年、下北沢に住んでいた頃は、それでも週に1~2回は食べに行っていましたか。
下北沢を離れてからも、都心の用事の帰り道などは独りで外食するならと、わざわざ下北沢に下車して訪れたものです。
しかし元々、料理が好きですし自宅で作業することが多いので、どうしても足が遠のいてしまい閉店したことを知ったのもずいぶんと時間がたってからでした。
この定食屋さんでよく注文していたのは先ほどのオムレツではなくて、常連の間では通称「カレー味」と呼ばれる料理です。
この呼称はそのまま注文で通じます。曰く「カレー味ください。ご飯大盛りで」などという具合です。
正確には「ナスと鶏肉炒め(カレー味)」と言います。
しかし常連さんはみな「カレー味」と呼んでいました。
(カレー味)の通り、確か(ゴマ味)もあったと思うのですが定かではありません。
なぜならメニューなんてもう何年も見ていないからです。
「ナスと鶏肉炒め」と言っても実際にはタマネギ、ピーマンも入っていました。
それが全て一口大に切りそろえられて、名前通りカレー風味で味付けられているのです。
このカレー風味がまた絶妙で醤油や味醂も使った和風テイストのカレー味なのです。
ですからとてもご飯に合います。
そしてまたこの定食屋さんはご飯が美味しいのです。
「カレー味」を頼むときについついご飯を大盛りにしてしまう所以です。
そもそもカレー好きな方は多いと思います。
週に一回くらい(あるいはもっと)はカレーライスを食べたくなると言う方も多いでしょう。
私もその通りで、時々無性にカレーが恋しくなります。
しかしその欲求通りカレーライス食べるのも悔しいと言う時もまたあるのです。
ご存知かどうかわかりませんが下北沢はカレー屋さんが多いです。
多いだけあって、どれも割りと個性的な味の店が多いです。
ですから「カレーライスが食べたい」というより「あの店のカレーが食べたい」になってしまうのです。
そうではなくていわゆる「カレーが食べたい」と言うようなときに件の「カレー味」はその欲求を満足させてくれる一品なのでした。
あぁ、もう一度だけでいいから「カレー味」が食べたい!
さて「幻の味」と言うのはもちろんこの「カレー味」のことです。
もう二度と食べることのかなわない、他には無い味です。
今まで何度、その味の再現に挑戦したことでしょう。
ただ挑戦を始めたのが遅すぎました。それは下北沢を離れてからのことです。
初めての挑戦の後、味を確かめるために何度か定食屋さんに通っていますが、こんなにも早く閉めてしまうとは思っていなかったのです。
ですからずいぶんと悠長に構えた挑戦だったと思います。
「いずれ味を盗んでやる。時間はまだまだあるさ」
しかし時間は無かったのです。
残念です。今となっては記憶だけを頼りに味を再現しなければなりません。
もちろん初めての敗北からいくらかの進歩はしています。
すでに充分美味しいというくらいにはなっています。
しかし違うのです。
美味しい料理が作りたいのではなくて、あの味を再現したいのです。
まだまだ当分私の挑戦は続くことでしょう。
そんなわけで、この「カレー味」のレシピを『本日のおしながき』で紹介できません。
なぜなら今でも作る度に調味料の配合を工夫しているところなので、簡単に言えばはっきりしてないのです。
決して出し惜しみしているわけじゃありませんよ。
いずれ私の納得のいくものが出来たときには紹介したいと思います。
それでは、また。