~~~~裁判の流れ~~~
1、「検察官の冒頭陳述」
冒頭陳述では、検察官が事件のストーリーを即興で考えて起訴します。(もちろん事前に準備するのもOKです)
被告人がどういう背景でどういった経緯で犯行を行い、その後、被告人はどのように検挙されたのか。そしてそのようなことをした被告人を何の罪で起訴し求刑するのかをしっかり話します。ここの内容がいい加減だとあとで弁護人にいろいろ突っ込まれてしまいます。
冒頭陳述の凡例
「被告を殺人罪で起訴、死刑を求刑する。被告人(25)は●月●日、●●市●●番の中田ビルの前において、以前に交際していた△☓さん(23)に復縁を断られたことに腹を立て、犯行現場で被害者を待ち伏せし、刃渡り12cmの刃物で左胸を突き刺し、その場から逃走し、被害者を失血死に至らしめものである。その後の捜査上で元交際相手であった被告人が浮上し、被告人には確固たるアリバイがなかったため、重要参考人として逮捕した。」
2、「被告人、起訴事実に間違いはありませんか?」
被告人と弁護人はここで選択を迫られます。
「その通りです、間違いありません」と言えば、起訴内容を認めたことになり、有罪になります。認めた場合は情状立証というパートが発生し、情状酌量の余地があるかどうかで検察と弁護人が争う形になります。
ただし、冒頭陳述で話されている犯罪があまりに重いものだと、情状を訴えたのに極刑を免れないケースもあります。認めるかどうか、冒頭陳述での罪状の軽微で否認するかどうかを判断するのもアリです。
「否認します」と言えば、無罪か有罪かを徹底的に争います。否認しているので情状での弁解はできなくなり、検察側が勝つとその求刑に近い量刑を宣告されてしまいます。弁護人は検察官の証拠調べに指摘を入れてその主張を崩して行く必要があります。
選択の凡例
「はい、起訴事実に間違いありません」or「いいえ、起訴事実を否認します」
3、「それでは検察官、証拠調べに入ってください」
重要な証拠の提出パートです。物的証拠と状況証拠を提出します。ここでの論述がいい加減だと、どんな事件でも「証拠不十分」となり、無罪になってしまいます。反面、証拠を多く上げすぎると、弁護人や裁判官から矛盾点などがあれば突っ込まれるので検察官はポイントを絞る必要があります。
証拠調べの凡例
「これが犯行現場に落ちていた凶器です。指紋を調べたところ容疑者の指紋が検出されました。それと現場に残っていた犯人の靴の形は被告の所有物である靴の形と合致増しました(物的証拠) 被告が被害者とは交際中にトラブルがあり、さらに復縁を願っていたことは被告の同僚からの聴取でわかりました。動機も十分ということです(状況証拠)」
4、「弁護人、検察官の証拠について反証があればどうぞ」
弁護人の晴れ舞台です。検察官が提出した証拠について証拠能力を疑う旨の突っ込みを入れまくるパートです。ここでの弁護人と検察官の応酬は当法廷のハイライトシーンだと思います。弁護人側としてはここでうまく検察が出した証拠を証拠能力がないものだと主張することが本法廷での重要な仕事となります。
弁護人反証の凡例
「犯行現場に落ちていた凶器の所有者は誰ですか?」「被告人です(検察)」「えっ?じゃあ被告人の指紋がついてるのは当然ですよね。普段から持っていたんですから」「復縁を願っていた事実だけで被告人が殺害したと断定できるんですか?」
5、「情状立証に入ります。弁護人から被告人尋問をどうぞ」
否認しない場合のパートです。弁護人は、被告人がいかに同情すべき状況であったか、あるいは、今は反省している、こんなことをして罪を悔いている、こんなことを言っていた、などを話してなんとか減刑してもらうための大事なシーンです。悲惨な事件が多い刑事裁判ならではのドラマ性がある展開になります。
情状立証の凡例
弁護人「周囲の人間関係上での聴取によりますと被害者は被告人に多額の借金、金額にして約300万円を借りており、そのほとんどが返済されていませんでした。さらに被告人は交際中、被害者の浮気にも悩まされており、そうしたストレスが積もり積もって衝動的に本犯行に及んでしまったのです」
6、「情状立証に入ります。検察官から被告人尋問をどうぞ」
5とは正反対で、本当に反省しているのか否かを検察官が被告人に問います。客観的に反省をしたと言えるのか?それらを検察官が確かめようとします。攻撃的、誘導的になる形になりがちで、弁護人の「異議あり!!」が多発するパートです。このパートだと検察官が意地悪な人に見えますがそれが仕事です。
被告人尋問の凡例
検察官「浮気をされて借金もまだ返してもらっていなかった。怒りを感じていたんですね?」「怒りを感じて被告人をどうしようと思っていたのですか?」「被害者を刺した後、逃走しましたよね。なぜ、すぐに逃走したのですか?刺してしまった後に救急車を呼ぶこともできましたよね?」「犯行後、自主しなかったのはどうしてですか?」
7、「否認裁判なので情状立証はしません。検察官から被告人尋問をどうぞ」
罪状を被告人が否認している時に発生するパートです。検察官が証拠調べで補えなかった証拠をさらに固めるために被告人口頭での証拠(公判中の言質)を尋問します。もちろん弁護人は都度、異議を唱えることができます。
被告人尋問の凡例
検察官「この凶器となった刃物はどういう目的で購入しましたか?」「なぜ、あなたの持ち物が現場に落ちていたんでしょうね?」「あなたの靴の形は現場で検出されたものと同じ形なんですよね。製品もサイズも同じなんですよ。これは偶然でしょうか?」「聴取によると、被害者を殺してやりたいって友人のAさんにこぼしていたそうですね。本気だったんですか?」「三百万円って大金ですよね。どれぐらいの期間に渡って貸していたんですか?」
8.「裁判所から被告人に訊きたいことがあります」
これまでのやりとりから判定を下す立場である裁判官がどうしても確認したいことを被告人に尋問するパートです。
9、「検察官、論告と求刑に入ってください」
検察官が、被告人はこれほどに悪い奴であるからこれだけの量刑を課されるべきだと改めて求刑をする場面です。裁判の推移に即して、具体的に批判する表現があると判定に有利に影響します。
論告と求刑の凡例
「被告人は金銭関係や交際関係のことで被害者を深く恨み続け、殺害の機会を伺ってきた。そして躊躇することもなくその無慈悲で残忍な計画を実行し、執拗な殺意を持ってかつての恋人を無情にも刃物で突き刺し死なせたのです。その後も法廷では悪びれることなく、無実を主張し、そこにはまったく反省も悔恨の情けも見られず、その非人間性に更生の可能性がないのは明らかであり、被害者の遺族の報復感情もまた峻烈である。したがって本件においては死刑を求刑せざるえません」
10、「弁護人、最終弁論に入ってください」
弁護人が、検察側の起訴している事柄はこれこれ、こういうわけでおかしい。これで罪に問えるわけがない、無罪である。あるいは、起訴事実について反論はしないが、被告人にはこういう事情があったのだから、そんなに重い求刑はおかしい、納得できない。これこれこういうわけでこれぐらいの減刑を切に願いたい、と言うパートです。理路整然と展開すれば判定に有利に影響します。
最終弁論の凡例
「被告人には前科がありません。本件は衝動的、かつ被告の苦悩の末に起きてしまったことであり、その犯行様態に計画性は無く、被告は現在、悔恨の念とともに深く反省し、遺族にも手紙を26通も送って謝罪しており、更生の余地は十二分にあります。したがって検察側の求刑は過大であると思料します」
11、「被告人から何か言いたいことがあればお願いします」
被告人が否認であればなぜ否認するかを自分の言葉で熱く訴える、そうでなければ反省の意思を熱く言葉で訴える、そういうパートです。反省してる場合は裁判官にそれを伝えるための大事なパートになります。
12、「審理に入ります。しばらくお待ちください~判決を言い渡します」
当イベントをしめくくる判決です。双方の努力や工夫への判定となります。ここでその裁判は終わります。ここで「不服があれば控訴してください・・・」とか「本件では審理不能です」と裁判官が言った時は、公判中に新事実が出てきて審理のやりなおしが必要なとき、あるいはいろいろな事情で裁判官が判定をするのが難しい状況のときです。