友達以上、恋人未満とは良く言ったものだ。

決して好きな言い回しでは無い。

何か、相手に対して失礼かも知れないし、自分自身も言われて嬉しいとは思わない。


K子との出会いは、クラス替えからであった。

オリエンテーションで僕と同県出身と知り、記憶に残っていた。


K子は東京で一人暮らしをしていた。

色々な女子と遊んでいると噂の男と付き合っていた。

僕はその様な男を好まない傾向にあるので、K子も軽い娘なのではと勝手に思っていた。

しかし、話をすると意外に楽しく擦れていない素朴な感が随所に漂っていた。


K子に好感を抱いた。


在学中は、特に何も起こらなかった。


強いて言えば、クラスの飲み会で一言二言談笑した程度であった。

彼氏の存在が邪魔をしていた。


卒業後、お互い同業他社に就職した。


仕事を始めて数年が経った頃、突然K子から連絡が来た。

就職先は知っていたが、まさかの連絡に驚いた。

飲みへの誘いだった。

彼女は同僚を伴って来る旨だったので、僕も職場の先輩を伴った。


二人きりではないが、K子と一緒に居ると気持ちが和んだ。


お互いの友達を伴い、幾度と無く飲みに行き、時には男は僕一人、プラス彼女の女友達と言うシチュエーションでK子の家に泊まった。


『あなたは危ない感じがしないから。』


喜んで良いやら、悲しんで良いやらである。


それから暫く経ち、K子と彼女の友達二人でサイパンに行くと言う話を聞く。

K子を驚かせてやろうかと、僕も友達を誘い、有給を取り、サイパン行きの予約をした。

彼女の日程はある程度聞いていたので、ほぼ同日程でスケジューリングした。


各々僕等は安宿、彼女等は高級ホテルに宿泊した。

今と異なり、フロントで尋ねれば直ぐに部屋番号を教えてくれた。

個人情報等無に等しい恐ろしい時代だった。

ロビーに降りて来たK子は笑っていた。


『何か来る予感がした。』


生意気っぽい態度に聞こえるが、彼女の笑顔が全てを打ち消した。


朝から夕方迄ビーチではしゃいだ。

黄昏時、友達が持って来た小さなラジオからRoy OrbisonのYou Got Itが流れて来た。

未だにこの曲を聴くと、サイパンの夕日をバックにしたK子の屈託の無い笑顔を思い出す。


友達以上、恋人未満…。

好きでは無い言い回しだが、僕とK子の関係を他に何と表現したら良いのだろうか。


…と、この話はひとまず次回に回すとして、正直Roy Orbisonには興味すら無かった。

僕の中では、一昔も二昔も前のポップスター的な位置付けだった。


しかしサイパンから帰国するや否や彼のアルバムMystery Girlを購入した。

音を聴いて判ってはいたが、Jeff Lynneが主要曲をプロデュース、参加メンバーはDylanを除くTraveling Wilburysの面々、Tom Pettyの盟友Mike Campbell、Benmont Tench、U2のBono等々。

豪華な面子である。


You Got ItはOrbison、Petty、Lynneの共作で当然の如くトップテンヒットとなった。

後に95年の映画Boys on the Sideでもフューチャーされた。

劇中ではWhoopi Goldbugが、サントラではBonnie Raittがカヴァーしていた。


僕は未だに夏になると夕暮れに合わせてこの曲を聴いている。




続く