それからと言うもの、俺は不思議と物を売る事が出来たんだ。
なぜだかは分からない。
自身が付いたとかそういう類のものではない。
一時は神がかり的に物が売れたんだ。
でも、3日に一回は吉川さんのとこへ行き、遅くなれば泊めてももらった。
でもある日、俺はドアの間から仏壇があるのを覗いたというより、見えてしまったんだ。
そこには、まだ若い男の人の遺影があった。
俺は、まさかと思いながらも、吉川さんになんて言ったらいいのか?言わない方がいいのか?
迷っていると、奥さんが『うちの一人息子よ』と言った。
俺は、『すいません、すいません』と何度も、謝った。見てはいけないものを見てしまったようで・・
すると、奥さんは、『いいのよ。』と、いいグラスにビールを注ぎ、自分もビールを口にした。
奥さんが、もう2年になるのよねぇ。。。と言った。
俺は、話すことが出来なかった。
亡くなられた理由は、事故にあったらしい。
海が好きで、仲間と海に出かけたが、帰りの車で事故を起こし帰らぬ人となったのだと・・・
奥さんは、『うちの人がね。あの子に、いつも言ってたの。正直で一生懸命、生きればそれでいい』ってね。
あなたを、いつも見ていたわ。
断られても断られても、一生懸命やってる姿を、それで家のドアの話をしたんじゃないかしら・・・
うちはねぇ~ 先代からの地主でね。自慢じゃないけど資産、財産はあるは!
けど、そんなものよりたいせつなものがあるでしょ。だから、あの人は、あなたが来ると、楽しそうにしてる。
でも・・・・
あの人も長くないのよ。自分でも知ってるの。
最後って言ったら変だけど、ありがとね!あんなに、楽しそうな顔をみられるんだもん。
それから、間もなくして、吉川さんは亡くなった。
財産相続でいろいろとあったのを、俺に相談しにきて、うまくまとまり、俺はその後、横浜に戻ったって訳だ。
『でも、相続って言っても、奥さんしかいないんだから揉めないでしょ』と、坂田が言う。
『普通わなぁ。』
『でも、吉川さんのお父さん。先代が亡くなった時、名義変更をしていなかったんだ。』
『吉川さんには兄弟が4人いて、長男が吉川さんだったんだが、それまでは、金で困れば吉川さんが面倒をみてやり、みんな納得してたらし。でも、今度は奥さんが全てを相続すれば、兄弟から見て赤の他人が、全部持っていくと思ったらしいんだ。それで、すったもんだして、切りのいいとこで和解したってとこだ。』
『なんかイヤな話ですね』と、坂田が言う。
『そうだな。イヤな話だな。でも、何百億の話になれば、どうなるものか見当もつかない。』
『何百億?』
『ああっ。そうだ。あのばあさん。質素な生活してるけど、億万長者なんだぜ。』と、いうと
『サラリーマン金太郎の世界みたいだ』と、真剣な顔をして坂田が答えた。
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