俺は、坂田に今日のあった事の全てを話した。
あの人は、吉川さんと言い、俺がまだ営業の駆け出しだった頃、あまりに売れないので、前の会社で転
勤させられたことがある。
その営業と言うのは、見て覚えろという体質で、右を向いても左を向いても、誰一人、指導してくれる人がいなかった。
住宅地を周りながら、雨が降ろうが、雷がなろうが、『すいませーん』言えば、断られ、『すいませーん』と言えば、断られの毎日だった。
坂田が『そんな時があったんですか?』と聞いてくる。
俺は黙って話を続けた。
そうこうしている内に、3ヶ月が経った時、ある男性から声を掛けられお茶でも飲んでいけと言われたんだ。
俺は、『はい』と言いながら、その家にお邪魔した。それが、吉川さんの家だった。
そこで、吉川さんは、俺に向かって、毎日、毎日、大変だなと言ってくれた。
そして、吉川さんは、家のドアの調子が悪いから見てくれと言ってきた。
でも、そのドアは至って普通に開け閉めが出来るし、調子なんて悪くない。
でも、契約が欲しい俺は交換しようと言いかけたが、やめた。どうせ、ドアの交換を契約しても、嘘の契約だ。
この先行っても、ラッキーなだけで持続はしないと思ったから、『大丈夫ですよ』と答えた。
すると、吉川さんは、笑い出した。
そうだよ。大丈夫だよ。この間、知り合いの大工に調整してもらったんだからと言いだした。
正直、俺はからかわれていると思い、『帰ります』といい、玄関に向かったが、ゴメン、ゴメンと追いかけてきた。
そこへ、吉川さんの奥さんが出てきて、からかうのはやめなさいよ。と、言ってくれた。
俺は、『失礼します。お茶、御馳走様でした』といい、帰ったんだ。
すると、翌日、また、吉川さんが声を掛けてきた。
すると、車に乗れと言われた。
ガレージを開けると、高級車が何台も止まっていた。
車に乗り込み、着いた先は、数十所帯あるマンションだった。
『このマンションなんだが、塗装をすればいくらする。』と言いだした。
俺は、『寸法を測って見積もり作らないと分かりません』と答えたら、
『お前が今見て、いくらかと聞いてるんだという』
困りながらも、『600万くらいでしょうか?』
というと、『分かった。』といい、家に戻り、『契約書は?』言われた。
俺は『ええっ!』と思わず、声を上げてしまった。
そして、何も言わず吉川さんは契約書にサインをしハンコを押してくれたんだ。
俺の、大型物件、第一号だ。
それから、吉川さんは何かあるたびに俺に電話をくれ、面倒を見てくれた。
いわば、俺が今、営業マンで居るのは吉川さんのおかげなんだ。
『それだけで、700万も・・・』と、坂田が言う。
『その続きがあるんだよ・・・』といい、珈琲を飲みほした。
つづく
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